最初の街ドルニグ(中編)

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「なんで三日目でそんなに受付さんに人気なの?? もてもて?」 「いや、俺に聞かれても」 「顔か、顔なの? ただしイケメンに限る、みたいな? どうしよう」 「へぇ、ミナが俺をそう評価してるとは思わなかったな」 「うん、私もよくわかんないんだけど」 「……知ってた。落ちつけよ、別にどうもしなくても……」 「あっ、違うよ? ユウはかっこいいけど私の基準の話じゃないんだって」 「お前な、上げて落として上げて何がしたいんだ!」  わしっと頭に手を乗せられ、そのままじっと顔を見上げる。うん、普通にかっこいいと思う。この私の中のイケメン基準がどの世界での私の感覚なのか、よくわからないが。さすがにニホン人には見えないぞ。  しかしまぁ、落ち着け、と言われて漸く大分パニックになっていたことを自覚する。その根底にあるのは「怖い」という感情だ。そう、確か勇者が勇者に選ばれてもてだした頃、私は随分ひどい目にあった筈。……そこまで考えて混乱した理由を理解し、彼は勇者ではないし立場も違うのに状況を重ねてしまったことに、頭の奥から冷えるような感覚に襲われ慌てて顔を上げる。 「ご、ごめんなさい。ひどい、失礼なこと言いました」 「いや、失礼でもなんでもないしそういう話じゃなくてな」 「痴話喧嘩か、朝から精が出るねぇ」  突如かけられた第三者の声。顔を上げるとそこにいたのはエリックさんで、その後ろには目深にフードを被ったローブ姿のマーナリアさんもいる。ローブは新調したのか、真新しいようだ。知り合いとわかっていても思わずユウの後ろに隠れるあたり大分小心者である。盾にしてごめん。  そういえばここはギルドを出てすぐの通りである。そりゃ見つけやすいことだったろう。 「もういいのか」 「ああ、おかげさまでな。んで、こんなとこで命の恩人がかっこいいだのなんだのイチャイチャ言い合ったかと思えば、急に落ち込み出して気になったってわけだ」 「しっかり聞いてたのならもっと早く声をかけてくれ。まぁ少なくともそっちが思うような喧嘩ではないな。ミナ、怖がらなくても大丈夫だから」 「……お、おはようございます。あの、私がめんどくさいことになってただけなので」 「変わった否定だな……」  どこか呆れたような視線を向けるエリックさんだったが、事実である。そもそも私はユウに恋人ができるとしても何か言える立場でもなく、もし相思相愛でそういった相手ができたのなら喜ばしいことだとも思うのだが、どうにも今日の受付の女性がナタリアさんに向けられていたような視線が恐ろしいのだ。これは暢気にしていないできちんと考えたほうがいいかもしれない。 「私にも挨拶させて。おはよう、聞いていると思うけれど、マーナリアよ。昨日は本当にありがとう」 「いや、俺たちはたまたま近くにいただけだ」 「それでもあの状況でたった二人だけで助けに来てくれるなんて感謝してもしきれないわ」 「今日は昨日の件か? なんで喧嘩なんてしてたんだ」  私が唸っている間に、どうやら昨日の受付を見ていた為事情を察したらしいマーナリアさんの推測が当たり、なぁんだ、とエリックさんが笑う。 「受付嬢は確かに強い男や将来有望な男が好きだろうさ。なにせ上のランクの冒険者の一回の報酬はかなりのものだし、家に残る嫁には大金使って安全と生活を保証する奴も多い」 「しかも高ランク任務ともなれば遠出してなかなか帰ってこないことも多いしねぇ。ま、危険な仕事に就くオトコってのもモテるものよ」 「男にとっちゃ寂しい話だぜ。金はあってもいない方がいいってか」 「あら、女が全部そうだという話ではないのよ? ねぇ? ミナさん」 「はは、捕まえてなくてもユーグはあんたを置いていかないと思うけどな」  ぽんぽんと繰り出される会話を聞いていると急に話題を向けられて、え、と固まる。すぐに意味を理解して犯人よろしく両手を上げた私が恐る恐る視線をユウに向けると、こちらを見たユウはどこか楽しそうにも見える笑みを向けていた。そのロングコートの背は不自然に摘まれたように一部が盛り上がっているが、証拠隠滅とばかりに慌てて私はそれを伸ばして直す。  そうだ、地属性魔法で穴を掘ろう……。穴に入りたくなるってこういうことだったんだね……。
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