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店内には布を敷いた木箱が並んでいた。その中に数個ずつ、丸底フラスコのような形をした瓶が収められている。赤っぽい液体、青っぽい液体、緑っぽい液体と様々あるがどれもそこそこ大きい。
冒険者はこれを購入し、持ち歩きできるサイズで丈夫な自前の小瓶に小分けに移して使用するのだ。
空になった大きな瓶は返却することが多い。瓶を作る技術は広まっているのだが、大きな瓶は返却すると次回購入時割引となるのが一般的であるらしい。
「いらっしゃい」
奥から現れたのは、眉間にしわを寄せ、どこか怒っているようにも見えるおばあさんだった。一瞬びくりとしたが相手は店の人であり、その視線に蔑みの色はない。ポーションを購入しに来ました、と私が声をかけると、瓶は、と要求される。
「これを」
ユウが持ってきていた瓶をカウンターに並べると、それを受取ろうとしたおばあさんがやや眉を寄せる。
「うちの店のものだね。だがあんたらは初めて見たと思ったが」
「師匠から受け取ったものだったんです。ここはたまたま他の冒険者に伺って来たのですが」
「そうかい。ま、好きなのを選ぶんだね」
言うなりおばあさんは椅子に座り、特に何をするでもなく私たちが選ぶのを待っているようだった。ええっと、と視線を移すが、どのポーションにも何も説明は書かれていない。
「赤いのは怪我用だからまだ余ってるし、青いのは魔力回復用だからまるっと残ってたな」
「欲しいのは体力と体内回復用の緑の……わ、すごい質がいいやつだよ、これ」
じっと一本を取って見つめるが、凝縮されたそれは濁りもなく、それが薄められたせいではないとわかる透度で、随分と効果が高そうに見える。むしろこんなところに並んでいてはいけないような、鍵付きショーケースでも欲しい品だ。
「これは……昨日の報酬を支払っても足りるような品じゃないかも」
「だな。ん、こっちのは大丈夫そうだ。っていってもすごいな、沈殿物なし。かなりの腕前の薬師の品だろな、これ。師匠がべた褒めしてたわけだ。この街で買ったんだな」
ユウと今の資金、というより予算で買えそうな品を選び、今度は棚に入った解毒剤の類を見る。こちらはきちんと商品名が書かれており、予算から魔物の毒の効果を消すものと、気付けの薬を選んでカウンターに並べた。
「これを。それと、ここにある上級ポーションは並べていて大丈夫なんですか?」
「ふん。エリックの坊主が勝手にここを紹介したって言うから並べたのさ。まぁいい、お前ら、ルイードとアーリアンナの弟子だね」
「……は、え? なんでわかるんですか」
珍しくユウまで目を見開き固まって、二人で唖然と店のおばあさんを見つめる。
「ふん、世界は案外狭いようだね。あのうるさい男が弟子が出来たと騒がしかったのさ。ほれ、銀貨五枚だ、さっさと持っていきな、今日はもう店仕舞いだよ」
「あ、はい」
慌てたユウが銀貨を渡し、受け取るなりさっさと帰れと追い出され。唖然としている間に扉が閉まる直前。
「また来な」
初めての薬購入はあっけなく終了し、ツンデレ……? と呟くユウの言葉がやけに頭に残ったのであった。
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