幼い春

2/2
前へ
/4ページ
次へ
ホーホケキョ。 (ほう)けていたらウグイスが鳴いた。 日本は今日も平和です。 「はあ、わからないわ」 「だからお前さんは句を詠めないのさ」 「いいの。私は先生の句を聞くのが楽しいから」 「そりゃあ、楽しい句を詠んでるからな。……その先生っていうの、」 「やめないわ。尊敬している人を先生と呼んで何が悪いの? 嫌だったら名前を教えて」 「はっはー、お前さんは生きていけるよ」 「どういう意味?」 「狡くて図太くて図々しい」 私が怒ると、先生は一句詠んで、たんぽぽの綿毛をふぅ――と飛ばした。 私の怒りも一緒に。 「先生の句集を作りましょう」 「嫌だね」 「なんでよ」 「名も残らず、目立たない生涯でいいんだ。ただ目の前の、ひとりの少女に笑顔を。俺が目指すのは、そういう、一笑(いっしょう)の句だ」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加