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来訪者
シャルルと踊り終えたパトリシアは、「帰るなら寄り道せずに真っ直ぐ自分の部屋に戻るんだよ。絶対だよ」と謎に念を押され、訝しみながらも言真っ直ぐ魔道士宮に戻った。
それにしても公爵家の養子だなんて……わたくし、これからどうなってしまうのかしら。
1人になり冷静に考えてみると、未知の領域に足を踏み入れるような得体の知れない恐怖を感じた。
ヴォロワ公爵家で公爵家としての淑女の勉強をやり直し、それからロシュディの婚約者としての教育が行われるのか。
その間、魔道士としての職務はどうなるのか。
考えることが多すぎて頭が痛くなる。
結局、ロシュディ殿下の思うがままに進んでいるのね。
振り回されてばかりだと感じる。
重いため息をついてパトリシアは自室の扉を開いて中へ入った。
「遅かったね」
「!!!??」
驚いて後ずさったために背中を扉に打ちつけたが、それどころではなかった。
「やあ」
「や、“ やあ”ではありませんわ!何故ここにいらっしゃるのですかロシュディ殿下!」
動揺のあまり声が上擦った。
「静かに、誰かに知られては忍び込んだ努力が無駄になる」
ベッドに腰掛け茶目っ気たっぷりに人差し指を口にあてたロシュディが愉快そうに目を細める。
明かりがついていないせいで声を聞くまで誰かわからず、ロシュディだとわかってからも心臓がバクバクとした。
そんなことに努力しなくていいのですが?!夜中に淑女の部屋に黙って侵入するなんて!
はっきりと言ってやりたかったがなんとか理性を総動員させて言葉を飲み込んだ。
相手は王族、相手は王族……。
わなわなと肩を震わせながらもパトリシアは居住まいを正してロシュディをキッと睨みつけた。
「それで、何故ここにいらっしゃるのですか」
「そりゃあキミに会いたかったからだよ。パーティーでは少ししか話せなかったしね。未来の妻に会いに来るのはそれほどおかしなことかな?」
「おかしいです!王族であらせられる貴方様が魔道士宮に忍び込むなんて!」
あまりにも飄々とした態度にさすがのパトリシアも堪忍袋の緒が切れた。
「はは、パトリシアは怒った顔も可愛いな」
「殿下っ!」
なおも愉快そうに笑うロシュディにパトリシアは地団駄を踏みたくなったがそれはさすがに堪えた。
そんなパトリシアの様子を見てニコニコと機嫌よく笑うロシュディが心底憎たらしい。
「ずいぶんいろんな表情を見せてくれるようになったね。嬉しいよ」
「……」
さも嬉しそうに顔を綻ばせるロシュディの態度がいつになく甘くて、パトリシアはどきりとして言葉を失った。
「おいでパトリシア、こっちで話そう。大丈夫、ここでは変なことはしないから」
壁薄そうだし、と付け加えて蠱惑的な表情を浮かべるロシュディだが、パトリシアはなんとなく今は近くに行きたくなかった。
「パトリシア?」
そんなパトリシアの様子に気づいたロシュディが首を傾げる。
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