義妹と義兄

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義妹と義兄

 今、わたくしのことを“妹 ”って言ったわよね……?  たしかにそう聞こえたが、今それをパトリシアから聞くのはなんとなく憚られた。 「あ、あの、ヴォロワ魔道士団長殿、妹というのはどういうことなのでしょうか」  おそるおそるといった様子でジェラールが訊ねると、シャルルは“ まだいたのか”と言わんばかりに眉を上げてジェラールに顔を向けたが、ふと悪戯な笑みを浮かべた。 「ああ、まだ公表はしていないのだけれどね、パトリシアはヴォロワ公爵家の養子となったのだよ」  にこりとしたシャルルの笑顔を見ながらパトリシアとジェラールは驚いて目を見開いた。  待って、そんなこと聞いていないわ!わたくしがヴォロワ公爵家の養子?! 「な、そんな……」  動揺している当事者のパトリシアよりも狼狽えているジェラールがよろりと後ずさった。 「つまりパトリシアは公爵令嬢ということになるのだけれど、キミはたしか伯爵家の嫡男だったね?公爵令嬢に対しての先程の言動……キミはどう思う?」  冷たい笑顔がなにを意味しているのかをジェラールは的確に察した。 「も、申し訳ありませんでしたパトリシア嬢。……失礼致します」  顔色を変えたジェラールは僅かに肩を震わせて足早にその場を去った。  バルコニーから完全に姿を消すのを見届け、シャルルは短くため息をつく。 「パトリシア、キミは自分がいかに注目を集め狙われているかを自覚したほうがいい」  それまでとは雰囲気を変え、シャルルはまるで本当の兄のようにピシャリとパトリシアに注意した。 「え?はい……?」  状況が整理できずに困惑しているパトリシアの返事を聞いてがくりとシャルルは項垂れた。 「そ、それより、妹ってどういうことなんでしょうか?わたくしなにも聞いていないのですが」  公爵家の名前を出している時点でその場しのぎの嘘とは思えない。  顔を上げたシャルルは曖昧な笑みを浮かべてパトリシアを見た。 「そのままだよ。ロシュディ殿下から養子の話は聞いているだろう?それで直々に話を貰っていたヴォロワ公爵家がキミを受け入れた、それだけのことさ。まあまだ手続きは終わっていないから、正式にはまだ妹ではないけれどね」  わたくしが、ヴォロワ公爵家の養子……?  話を聞いても全く腑に落ちなかった。 「つまり、シャルル団長がわたくしの義兄様になるということですか?」 「ん?ああ、そういうことだね。はは、なんだか義理とはいえキミと兄妹になるだなんて変な感じがするな」 「わたくしは、嬉しいです」 「え?」  苦笑を浮かべていたシャルルはパトリシアの予想外の返しに目を丸くした。 「公爵家に養子と聞くと畏れ多いのですが……。わたくしはずっと団長のことを、勝手に実の兄のように慕っておりましたから。団長が本当にわたくしの義兄様になってくださるのなら、これ以上嬉しいことはありませんわ」  気恥しく思いつつ、パトリシアは正直な気持ちを打ち明けた。  いつも自分を気にかけ、ときには導き、ときには厳しく叱り、励まし、優しくしてくれたシャルルと家族になれるのは喜ばしいことだった。  パトリシアのはにかんだ笑みを見て、シャルルは複雑な己の葛藤を手放した。  男として意識されていないとは思っていたが、まさか“ 兄”のようだと思われていたとは。  ……まあ、この想いが実らずとも、パトリシアがこうして喜んでくれるのなら良しとしよう。 「私も嬉しいよ。キミのような可愛くて部下としても優秀な子を義妹として迎えられるなんてね」  精一杯の笑顔を向けると、パトリシアは照れたようにはにかんだ。  男としてではなく、家族としてパトリシアを守るというのも悪くない。 「さて、それではこの義兄と1曲踊って貰えるかな?」  おどけた様子で手を差し出すシャルルに、パトリシアはとびきりの笑顔を向けた。
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