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自覚
翌日、シャルルから休みを言い渡されたパトリシアは朝から出掛ける準備をしていた。
部屋に居ると気持ちが塞ぎ込んでしまうし、なによりここにいればロシュディがやってきそうな気がした。
せめて気持ちが落ち着くまでは会いたくない……。
ロシュディのことを考えると何故こんなにも心が掻き乱されるのか。考えてみてもわからない。
溜息をついて頭の中の雑念を追い出すと、パトリシアは部屋を出た。
休みのときは自分の店に顔を出すと決めているパトリシアは、今日も店へと足を運んだ。
経営状況を聞いたり、新作の装飾品の打ち合わせをしたりと時間を有効に使い、人材派遣ギルドへも顔を出した。
けれども用事を済ませてしまえばロシュディの顔が浮かんでくる。
わたくしったらどうしてしまったのかしら。
次は教育施設へ顔を出す予定だが、ふとあることを思い出した。
そうだ、殿下に贈り物をしたいと思っていたんだわ。
なにをあげれば喜ばれるのかわからないが、いろいろ見て回って決めるのもいいかもしれない。
どうしてもロシュディのことを考えてしまうのなら贈り物のことを考えたほうが建設的だと思い至り、パトリシアは一度馬車を停めているところまで戻り商店街を回ってくることを御者に告げた。
仕事以外で街を歩くのはパトリシアにとっては珍しいことだった。
ドレスや装飾品を買うことも滅多にないので、人や物で溢れている通りを歩くのは新鮮な気持ちになった。
街の気候は少し涼しくなり始めており、すれ違う人々の装いも少しずつ暖かいものへと変わってきた気がする。
この先の季節を思えば暖をとれる物も贈り物としていいかもしれない。
あれこれ考えながら目についた店に入ってみたりしているうちに、他人への贈り物を選ぶのは随分久しぶりのことだと気がついた。
けれど今までのどの時よりもこんなに心が弾むのは初めてだ。
ロシュディ様を喜ばせたい。
さっきまではロシュディにどう思われているのかで悩んでいたが、今はこんなにも愛しさが溢れている。
……愛しい?ロシュディ様が?
ロシュディの贈り物を考えつつも気になった小物を手に取った瞬間、パトリシアはハタと動きを止めた。
愛しいって……そんな、まさか……。
手の中にある可愛らしいガラス細工の犬の置物に視線を落とす。
なんとなく手にしたその犬の目にはブルーダイヤが嵌め込まれていた。――ロシュディの瞳の色だ。
「っ!!!??」
無意識に選んだものがロシュディの色をもつ物だったことに動揺したパトリシアは、即座にそれを戻して慌ただしく店を出た。
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