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「そんな……わたくし、ロシュディ様のことを……?」  まさか、と否定しようにも、胸の高鳴りと頬の熱がパトリシアに訴えかけてくる。“これは恋なのだ”と。 なんてこと……!  人目があるにも関わらず、パトリシアは店の前で熱くなった顔を両手で覆った。心臓がバクバクとうるさい。  自覚してしまえば今までの自分の気持ちにも納得がいく。ロシュディのことで一喜一憂する自分はまさに恋する乙女だった。  悩んで落ち込んでいたこともそういうことなのだと分かってしまえば途端に恥ずかしくなり、パトリシアはいたたまれなくなった。  今すぐ部屋に帰りたい……!  まさか自分がそんな感情に悩まされる日が来ようとは思いもしなかった。  火照る身体に“静まれ!”と言い聞かせながら小走りで馬車の方へと戻ろうとしたときだった。  1人の水色の服を着た令嬢がパトリシアの横を進行方向に向かって駆けていった。  なんとなく見知った人物に似ている気がしてその背を見ていると、背後から3人の男達がパトリシアを追い越して行った。身なりはそこそこだが、走って行った令嬢といい、なにかよからぬ事を想像してしまう。  水色の服の令嬢が建物の角を左に入ったあとを男達も追うようにして入って行ったのを見て、パトリシアは咄嗟に駆け出した。  令嬢と男達が入って行った角を曲がり細い道を進んだところで小さな悲鳴が上がる。  貴族が買い物をする大きな通りの近くではあるが、奥に踏み込むと途端に人気はなくなる。そういったところでは事件は起きやすい。  急いで声のしたほうに向かったパトリシアは、建物の陰で薄暗い道の真ん中に先程の令嬢が倒れ込んでいるのを発見して駆け寄った。 「大丈夫ですか?!」  素早く周囲に注意を向けるが男達の姿はなかった。ひったくりかなにかだったのだろうか。 令嬢のそばで膝をつき抱き起こしたパトリシアは、目を大きく見開いた。 「っ、ミシェル!?」  名を呼んだ瞬間、腕の中のミシェルはカッと目を開いてパトリシアを見た。  ブスリ、と首に細いなにかを刺されて咄嗟に払い除けるようにしてミシェルを突き飛ばしたが、急に視界がぐにゃりと歪んだ。 「な、なに……を……っ」  立ち上がろうにも足に力が入らなくなり、ぐるぐると目の前が回って目を開けていられなくなる。 「貴女が悪いのよ」  道に崩れ落ちながらも必死に意識を保とうと抗っていると、頭上から温度のない声が降ってきた。  意識が暗転する間際、パトリシアは複数の足音が自分を囲む音を聞いた。
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