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祈り
「う、嘘よ……!だって、髪の色が違うじゃない……ロシュディ様なわけないわっ」
ピクリとも動かないロシュディを見下ろすミシェルは動揺のあまりナイフを落としてブルブルと震えだした。
ミシェルのことなど頭の外に追いやってしまっているパトリシアは力任せに足輪を外そうと躍起になっていた。爪で皮膚を引っ掻こうが、擦れて血が滲もうが関係ない。
一刻も早くロシュディを救わなくては。今のパトリシアの頭の中にはそれしかなかった。
そこへ駆けつけたのは側近のルイだった。パトリシアの悲鳴が聞こえて慌ててやってきたルイは、目に飛び込んできた光景に顔色を失った。
「殿下ッ!」
入口前に立ち竦んでいるミシェルを押し退けロシュディの傍らに膝をつき、ルイはロシュディの口元に耳を近づけた。
今にも消えてしまいそうなほど弱々しいが、まだ息はある。
「っ、お願いします、これを外してください!これのせいで治癒の魔法が使えないんです!外れないのなら足を切ってくださって構いませんから!」
涙を流して懇願するパトリシアがスカートの裾をまくって足輪がついている足を差し出した。
瞬時にそれを確認したルイは素早く動いて足輪に触れる。
「大丈夫です、これは外側から他者が魔力を流せば外れます」
言いながらルイが魔力を流すと簡単に足輪が外れ、パトリシアは急いでロシュディの傍らに膝をついた。
「ほ、本当に、その方はロシュディ様なの……?」
信じられないというふうに目を見開き呆然としているミシェルの声に反応したルイは、ミシェルが変な動きをしないようにと床に落ちていたパトリシアが縛られていた紐で手早く拘束した。
「ロシュディ様、お願い、死なないで……!」
ロシュディの胸元は血でぐっしょりと濡れ、床にまでそれが広がっていた。顔色は生気が抜けかけているのか土気色をしている。
傷口に両手をあてて、パトリシアは自分が持てる全ての力をそこに注ぎ込んだ。
パトリシアの手の平を中心に眩い白い光が迸る。
「目を開けて、ロシュディ様……お願い、お願いっ」
光はパトリシアの思いに比例して更に強まり部屋中を明るく照らした。
ロシュディ様が助かるなら力が枯れて使えなくなってもいい!
「貴方が助かるならなんだってする!死んでも構わない!」
急激な魔力消費による頭痛と目眩がパトリシアを襲い、指先がビリビリと痺れて全身が鉛のように重たくなる。それでも、もっと、もっととパトリシアは力を振り絞った。
奪われることに慣れてしまっていたパトリシアだが、絶対に譲れない、命をよりも大事なものを見つけたのだ。意地でも手放してなるものかと歯を食いしばる。
「だから、お願いっ……!戻ってきて……!ロシュディ様!」
迸る光がヴェールのように広がってロシュディを優しく包み込む。
ズキリと胸や頭に痛みが走り身体が悲鳴を上げるが決して力は緩めない。
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