口づけは涙の味

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口づけは涙の味

 ギュッと目を瞑って治癒に集中しているパトリシアの頬をするりとなにかが撫でた。  ハッと目を開くと、涙で滲んだ視界の中に青灰色の目が映った。 「――……なんでもするって、本当……?」  掠れた声がパトリシアの耳に届く。ロシュディの長い指が頬を伝う涙を優しく拭っていく。  弱々しいながらも嬉しそうに細められた目に自分の顔が映っているのを見て、パトリシアはくしゃりと顔を歪ませた。 「ロシュディ様っ……!」  がばりとロシュディの首元に抱きつき頬を寄せるパトリシアの背を、ロシュディは労わるように優しく撫でた。 「――ありがとう、パトリシア」 「こちらこそ、目を覚ましてくださってありがとうございます……っ」  しがみつくようにしてロシュディの首元に顔を埋め、パトリシアは嗚咽を漏らしながらこたえる。  2人が抱き合う姿を見て、ミシェルを抑えていたルイも安堵のため息をついた。  ルイの存在に気がついたロシュディは目線で心配をかけたことを謝罪し、ルイは苦笑を浮かべながらもゆるく首を振り、ミシェルを連れて部屋を出た。 「……それにしてもいつも思うけれど、キミは本当に軽率すぎるよ。“なんでもする”というのはあまり言わないほうがいい」  そんなところも好きだけど、と、おかしそうに微笑を漏らすロシュディの声を聞きながらパトリシアはゆっくりと身を起こした。  泣きすぎて酷い顔になっているに違いないと思い、服の袖で濡れた顔を擦ってからロシュディの目を見つめる。  湖面を照らしたような暖かみのある青灰色の目が愛おしげに細められ、胸の奥が甘く高鳴った。 「いいんです。だって、貴方のことが好きだから」  無意識に浮かんだ笑みは今までのどんな笑顔よりも柔らかく、愛おしさに溢れていた。  驚いたように目を丸くしたロシュディの顔は徐々に血の気を取り戻していく。  眩しげに目を細め、上体を軽く起こしたロシュディはとびきり甘くふやけた笑顔でパトリシアの頬に触れた。 「――そう、嬉しいよ、パトリシア」  はにかむロシュディの微笑みがパトリシアの胸を堪らなく痺れさせ、パトリシアは引き寄せられるようにロシュディに顔を近づけた。そっと目を閉じた拍子に零れた涙がロシュディの頬にポタリと落ちる。  嬉しそうに目を閉じて迎え入れたロシュディの唇にパトリシアのそれが重なった。  今までで1番甘くて幸せな口づけは涙の味がした。
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