1.私の右手が恋をした

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 中一の時のことを思い出す。  中一の春、中学に入って初めての自己紹介で失敗した私は、友達が中々できなくて、それで中三のときに美月ちゃんと同じクラスになるまで凄く苦労したんだ。  だから高校に入学したら、絶対にクラスの中心の、キラキラした人たちの中に入るんだって決めてた。  なのに、よりによって一番最初の自己紹介であんなこと言っちゃうなんて。  自分の言った言葉を思い出し、大きなため息をつく。  "私の右手があなたを気に入っただけですっ!"  何であんなこと言っちゃったんだろう。クラスのみんなから「変な女」って思われたよね。 「まあまあ、仮に友達ができなても私がいるんだし気にしなくてもいいじゃん」 「そうだけどさ」  確かに、美月ちゃんがいる分、中一の頃よりはるかに気が楽。  だけど友達がクラスで一人しかいないっていうのも困る。  美月ちゃんだって風邪で休んだりすることもあるだろうし、それに友達が一人しかいない女っていうのも、いかにも陰キャぽくっていただけない。  私が憧れてるのは、もっとキラキラした華々しい青春なんだから。 「まあ、私も高校デビューしようと思って髪型変えたし、気持ちは分かるけどさ」  美月ちゃんが茶色い毛先をちょいと引っ張る。  それがまた可愛らしくて、美月ちゃんの色白の肌に良く似合ってる。  元々色白だし、顔の作りは整っていたけど、より垢抜けて、今にもアイドルとしてデビューできそうな感じ。  私とは違い、美月ちゃんは高校デビューにばっちり成功したみたい。 「いいなあ、美月ちゃん。その髪型、似合ってるよ」 「そう?」 「私なんて、自己紹介だけじゃなく、髪の毛も失敗しちゃったし」  私が短くなりすぎた前髪を引っ張ると、美月ちゃんは、あははと声を出して笑った。 「そうかな? その髪も似合うよ。恵麻って元々お人形さんみたいだったし」  それ、褒めてるの?  頭の中に、美術の教科書で見た「麗子像」の絵が思い浮かぶ。  今の私の髪、あんな感じなんですけど……。  はあ。スッキリとしたショートカットにするつもりだったのに、結べないと邪魔だよとか何とか言われて、美容師さんの言われるがままに少し長めにしたら、まさかのおかっぱになるなんて。  せめて、髪は真っ黒じゃなくて茶色にするべきだったかな。それだけでだいぶマシな気がする。でも今更染めるのもな。 「人形って、髪の伸びる呪いの人形とかそういうのでしょ」  私が低い声で言うと、プッと前の席から笑い声が聞こえてきた。 「あはは、呪いの人形!」  腹を抱えて笑っているのは、私の右手が気に入った相手――笹原くんだ。  かあっと全身の体温が上がる。 「わ、悪かったわね、呪いの人形で」 「いやいや、悪い意味じゃなく」  笹原くんが慌ててフォローする。  呪いの人形に、良い意味なんてあるのでしょうか。
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