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2.放課後のカラオケ
「ねえねえ、クラスのみんなでカラオケ行かない?」
クラスの女子が話しかけてきたのは、その日の放課後だった。
正確に言うと、女子は美月ちゃんに向かって話しかけてきた。私はそのおまけ。
美月ちゃんは明るいし、オシャレだし、私よりずっと可愛いから仕方ない。
私は女の子の制服に縫い付けられた名札を見た。明日菜ちゃん。心の中で反芻する。
明るくて活発そうだし、明日菜ちゃんはきっとクラスの中心的な女子なんだろうな。仲良くしておかなきゃ。
「カラオケ?」
美月ちゃんが聞き返すと、明日菜ちゃんは一点の曇りもない笑顔で答える。
「うん、クラスのみんなと仲良くなるために」
「だって。どうする? 恵麻」
美月の問いに、私はとっさに笑顔を作り答えた。
「えっと、私、行ってみようかな」
正直なところ、私はあまり人前で歌うのは得意じゃない。
でも、私がいないところでみんなが仲良くなって、私だけが仲間はずれにされることを考えると――ここは何としてでもみんなの輪の中に入らなきゃ。
「じゃあ、せっかくだし行ってみようか」
「うん。じゃあ、決まりね」
話がまとまり、明日菜ちゃんは何やらスマホにすらすらとメモをする。
「美月ちゃんと恵麻ちゃん参加ね。……あ、ねえねえ」
明日菜ちゃんは、カバンを背負って帰ろうとした笹原くんに声をかけた。
「何?」
「笹原くん……だよね。放課後、みんなでカラオケに行かない?」
聞くつもりは無かったのに、思わず聞き耳を立ててしまう。
笹原くん、来るのかな?
「いや、俺はパス」
笹原くんはあっさりと返事をする。
「ふーん、何か予定でもあるの? あ、ちなみに、女子だけじゃなく、男子もたくさん来るんだけど」
「いや。俺、みんなの前で歌うの苦手だから。じゃあな」
ヒラヒラと手を振って去っていく笹原くん。
実にあっけらかんとした去り方。男子ってみんなあんな感じなのかな。
女子みたいに常にグループ行動をしたり一緒にトイレ行ったりするのも無いみたいだし、女子より同調圧力はないのかも。羨ましいな。
笹原くんが去ったあとの机をぼうっと見つめていると、明日菜ちゃんがクスリと笑った。
「笹原くん、来なくて残念だったね。でも大丈夫、まだこれから仲良くなるチャンスあるって」
かあっと顔が熱くなる。
明日菜ちゃんってば、私が笹原くんのこと好きだと思ってるんだ。
「あ、いや、そういうわけじゃ」
「じゃあカラオケ屋の前に集合ね!」
ヒラヒラと手を振って、教室を出ていく明日菜ちゃん。
ひょっとして私、クラスのみんなに笹原くん狙いだと思われてる?
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