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ヤマトの攻撃!グランドトール!
ズゴォォン!
魔王エンザーグに312のダメージ
魔王エンザーグは大きなツメでヤマトを攻撃した
ガシュガシュッ!
ヤマトにに405のダメージ
ユアはトゥインクルヒールの魔法を使った!
ポワァァァ
ヤマトのライフが全て回復した
「わたしが付いてるから大丈夫、ヤマトくんがんばって!」
ヤマトの攻撃!グランドトールがクリティカルヒットした!
ドドドッズゴォォン!!
魔王エンザーグをやっつけた。
「やったー、やっぱりわたしとヤマトくんの愛の力は最強なんだー!」
わたし、大城結愛は中学一年生。ゲームが大好きな女子。髪は小さいころから肩くらいまでのミディアムで変わっていない。身長は150センチちょうどで周りの子の中では少し低いほう。体重は秘密。でも太いとも細いとも言われないし、自分でも普通だと思う。勉強も運動も特に目立って得意じゃない。中学生になって最初の学力テストでどの科目も70点台をうろうろみたいな感じ。運動の方が少し苦手かな。最近はあんまり外で遊ばないし。
ガチャ。キィィ、バタン
「ただいまー。お、トゥルーファンタジーやってたのか?クリアした?」
そう声をかけてきたのは2歳年上のお兄ちゃん、翔。お兄ちゃんも昔からゲームは好きで、物心ついた時からわたしはお兄ちゃんと一緒にゲームをして育った。おかげで今ではわたしは周りの女の子に比べてかなりゲームが好きになっていた。
「うん、今クリアしたとこ。最後のボスすっごい強かった」
「ああーあいつね。俺も倒すの苦労した。ってかさぁ、教科書とか出しっぱじゃん。お母さんたちが帰ってくるまでにリビング片付けとけよ。またゲーム禁止にされても知らねーぞ」
「今からやるとこだったの」
「ホントかよ」
そう言って笑いながら自分の部屋へ入っていくお兄ちゃん。今年は受験生になったから今までよりはお兄ちゃんとゲームをする時間は減った。その代わり、わたしは今までと少し違うゲームの楽しみ方をするようになっていた。さっきみたいに主人公の名前をわたしと、わたしの大好きな大和くんの名前にして楽しむこと。
あるときは勇者と姫。
またあるときは狩りのパートナー。
学園恋愛ものの主人公に自分の名前をつけて、相手の男の子に大和くんを重ねる時もある。
大和くんは、お兄ちゃんと同い年だから2年先輩なんだけど、近所に住んでて小さい時からうちにもよく遊びにきてた。いつもすっごく優しくて、イジワルもしないし、足だって速かった。大和くんともたくさんゲームした。勝ったら笑って、負けても笑って。いつもずっと笑ってくれる大和くんのことがいつの間にか大好きになっていた。
***
「でね、最後にすごい技がくるんだけど」
「待って待って、ゆーちゃん、わたし頭整理できてない」
「もう、ココロンついてきてよー」
「ちがうよ、ゆーちゃんのゲームの話が難しすぎるんだってばー」
学校のお昼休み。中庭でわたしと話しているのは親友のココロンこと、皆川心。ココロンは小学校の頃から仲良しで、中学でも同じ一組になれた。ココロンはわたしみたいにゲームはしないんだけど、わからないなりにわたしの話をニコニコ聞いてくれる。ココロンは逆にわたしの知らないファッションや歌手、宇宙のことや小説とかも詳しくて、わたしが知らないことがあると教えてくれていつもすごいなって思うし、尊敬してる。
「おーい、結愛ちゃーん」
中庭の反対側から声がした。昔より少し声が低くなったけど変わらない柔らかい声。声の主は大和くんだ。短い髪がスポーツマンって感じでいつも似合ってて、切れ長なのに柔らかい目をくしゃっとさせた笑顔でわたしに手を振りながら歩いている。次の授業の教室に向かってるのかな。中学に入って一ヶ月半。こんなふうにわたしを見つけたら、いつも明るく優しく声をかけてくれる。そんな時、胸の奥がキュウゥってなって、顔も体もすっごく熱くなっちゃう。さっきまで普通に話せていたのが嘘みたいに、今は声を出そうとしてもうまく出ない。ドキドキが止まらない。
「えへへ」
息まじりの声を出すのが精一杯。離れた大和くんにはきっと聞こえてない精一杯の笑い声。自分の顔は見えないけど、きっとうまく笑えてないんだろうなぁ。恥ずかしさでいっぱいだもん。でも大和くん、今日もカッコ良かったな。
「今の人」
となりからココロンの声がして、慌ててココロンに視線を戻した。
「たしか、ゆーちゃんの幼なじみの人だよね。秋元先輩だっけ」
「うん、そうだよ」
「ゆーちゃんの幼なじみだからとか抜きにしてもカッコいいよね、性格も良さそうだし。すっごくモテそう」
「ココロンもそう思う?」
「思う思う」
「ムフフ」
「なに、ココロン、変な笑い方して」
「ううん。ゆーちゃんってわかりやすいなと思ってさ」
「えっ!」
「顔が真っ赤だぞ〜」
「もう、からかわないでよ」
トンッ
「ん?」
足になにかが当たった。サッカーボールだ。
「わるーい、ボールこっちに戻してくれー」
これ以上ないくらい明るい声が聞こえてきて、わたしは声の方に振り返った。
「夏川くんだ」
わたしと一緒に振り返ったココロンが言った。夏川くん。あ、うちのクラスの夏川蒼くんか。
中学校に入ってから、ココロンみたいな小学校が同じだった子たちとは話せるんだけど、別の小学校出身の子たちとはまだそんなに仲良くなれていたわけじゃなかった。それに加えて周りの子は流行りの音楽やSNSなんかの話題が多くなって、ゲームくらいしか趣味のなかったわたしはどんなふうに話に入ったらいいのか、最近はためらってしまう。夏川くんも別の小学校出身で、わたしは今までほとんど話したことがなかった。
「なあ、早くー」
「ゆーちゃん、けり返してあげなよ」
わたしがほんの少し夏川くんのこと思い出している間に二人から声が飛んできた。
「ごめーん、いくよ〜、えい」
自分が思い描いたイメージとはまるでちがう、弱々しく転がるボールは夏川くんとは全然違う方向へ転がっていってしまった。
「どこにけってるんだよー、しょうがねえなー」
そんな小言を口にしながら走ってボールを取りに行く夏川くん。だいたい、夏川くんがボールをこっちに転がしちゃうからいけないのに、なんでわたしが文句を言われなきゃいけないのよ。そんな風に思ってふくれっ面のわたしを見たココロンが教えてくれた。
「夏川くんてすごく人気あるみたいだよ。髪はそのへんの女の子よりサラサラだし、目もぱっちり二重のイケメンでスポーツ万能だし、ハキハキしてるところがカッコいいんだって。しかも頭まで良いらしいから、わたしが知ってるだけでも夏川くんが好きっていう子五人もいるもん」
「えー、信じられない。あんな人のどこがいいのかわかんない」
「たしかに今みたいに思ったこと全部口にするとこあるけどさ、好きっていう子の気持ちもなんとなくはわかるんだ。この前ね、わたしが委員会の資料の束を廊下に落としちゃったとき、一番に走ってきて拾うの手伝ってくれたの。その時にね、あー、これかーって思った」
「ふーん、そういうところあるんだ……」
「それにさ、近くで見ると瞳の色が茶色くてすごくキレイだった。まあ、秋元先輩がいるゆーちゃんには関係ないか」
「ちょっとココロン思い出さないでよー」
「あ、ゆーちゃん、そろそろ休憩終わっちゃうよ!戻ろう」
「もう」
夏川くんが人気あるのはわかったけど、ココロンの言う通り、わたしはやっぱり大和くんが好き。他の人にこんなにドキドキしないもん。
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