始まりの三人

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「うんうん。ここまで鍛えてくるとは思わなかった! やるなあ岩尾」 「へっへっへっ……だろぉ? 宿題返上して頑張っちゃったぜ! 可愛い筋肉ちゃんを構ってあげないとな」  岩尾が胸を張って、カッターシャツのボタンをミチッと胸筋で引っ張る。すごいマッチョ。そしてコイツは短気だから、下手なことを言って怒らせることができない。  たぶんクラスの誰もが話を聞いて思ったことを、神原が言ってくれた。 「宿題はしろ。筋肉バカになってどうする」 「え? 夏休みの宿題って、休み明けが本番じゃねーの?」  ……なるほど、そういうヤツなのか。  この一件で俺は岩尾のことがよく分かった気がした。  夏休み明けに三人同時マッチョ。  気になってマッチョ化の理由を神原と飯山に聞いてみたけれど、返ってきた言葉はどちらも力こぶを作りながら「ちょっと育ててみた」の一言。  ちょっとで済む話じゃないとは思うけれど、でもなんとなく分かる気がした。  神原は柔道の有力選手。飯山はサッカーのゴールキーパー。岩尾は帰宅部だけれど中学からケンカ常習犯という噂。  三人ともそれぞれ筋肉をつけてもおかしくないヤツらだ。  だけど、そこからさらにマッチョが増えていくだなんて、当時の俺はまったく想像していなかった。
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