若い叔母と、孤独な甥

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 「おおい、フランツ」 夫が、呑気な声を出した。 「おいで、フランツ。ゾフィーがお前と、話をしたいって」  ……悪い人じゃないんだけど。  ゾフィーはため息をついた。  大公を表す赤いサッシュを、肩から斜めにかけた夫は、人が良さそうに笑っている。そのフェルトが、少し捩れていることに、ゾフィーは気がついた。だが彼女は、夫の肩に手をかけ、直してやろうとはしなかった。  金髪の少年が、振り返った。  F・カールの姿を認め、一瞬眉を顰めた。だが、すぐに、微笑み返した。  一緒に居た人たちに何か囁くと、彼は、足早にこちらへ向かってきた。スマートな体が、猫のようにしなやかに近づいてくる。  ……白い肌。赤みを帯びた、すべすべした頬。ふっくらとした唇。  ……広い額に、黄金色の髪。どこまでも澄んだ、青い瞳。  「フランツはね。僕にとって、弟みたいなもんさ」 得意げなF・カール()の声で、ゾフィーは、我に帰った。  美しい少年に見惚れていた自分に気がつき、はっとした。  「弟じゃありませんよ、叔父さん」 少しかすれた声が返す。その時ゾフィーは気がつかなかったが、声変わりの途中だったのだ。 「叔父さん? 叔父さんはないだろ? 俺はいつもお前のことを、実の弟と思って、教え導き……、」 「母上は怒ってましたけどね。叔父さんが僕に、変なことばかり教えるって」 「変なこと? 失礼な。俺が今まで教えてきたのは、有意義な人生のありかたそのもので……、」 「ザクセン王妃(皇帝の姉。フランツの大伯母)からパルマの母に、手紙がいったそうですよ。僕を貴方に近づけないほうがいいって」  ひどく生意気な態度だ。  だが、ゾフィーに向けられた声は、丁寧で優しかった。  彼は、吸い込まれそうなほど澄んだ瞳で彼女を見つめた。 「顔合わせの時にお会いしましたね。ゾフィー大公妃。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」 「よろしくね、フランツェン」 ゾフィーが言うと、フランツは、複雑な顔をした。 「挨拶が遅れたのは、しょうがないよ。僕らの回りは、いつも人がいっぱいいたからね」 慈悲深く、F・カールが許しを与えた。
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