1832年、夏

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 シェーンブルンには、すでに、姉のマリー・ルイーゼとその息子フランツが、来ていた。  連合軍のパリ進軍に伴い、マリー・ルイーゼは、臨時政府下のフランスを脱出、実家であるオーストリア、ハプスブルク宮廷に帰ってきていた。  3歳になったばかりの息子を連れて。  ナポレオンは退位し、だが、その尊厳は完全には奪われず、エルバ島に封じられた。  エルバ島の領主となった彼は、妻と息子を取り返そうとし、何度か、マリー・ルイーゼに手紙を寄こした。もちろん、父の皇帝も、宰相のメッテルニヒも、皇女(マリー・ルイーゼ)に、ナポレオンとの接触を厳しく禁じた。  フランツは、何も知らなかった。依然として彼は、フランスからついてきた取り巻きに囲まれ、母はそばにいて、幸せといえば、幸せだった。  大好きな父とは、会えなかったけれども。  フランツにとっては母方の叔父であるF・カールは、当時12歳。おとなでもあり、子どもでもある、微妙な時期だ。
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