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「おーい!」
おじさんが大きな声で誰かを呼ぶ。
あの子が出てくると思うと少しだけ胸が高鳴ったが、次のおじさんの言葉でその気持ちは驚きに変わる。
「来夢~、お友達がきたぞ~」
来夢…?
北大路来夢!?
ぼくはその言葉で一気に身構える。
焦りや驚き、怒りや嬉しさや恥ずかしさなど色々な感情が複雑ならせんとなって頭の中を渦巻いていた。
「は~い」
トタトタと階段を降りるちいさな音が聞こえる。
降りてきたのは、やはり昨日傘を貸してくれた彼女だった。
「南野くん!傘、返しに来てくれたんだ」
「えっと…北大路…?」
「あっ、そっか!学校で話したことなかったよね。そうだよ、北大路来夢だよ」
ぼくが考えていた北大路来夢とはだいぶ違った。
もっと背が高くて、冷たいイヤなヤツだと思っていた。
だけど目の前にいる彼女は小学生みたいだ。
いや、下手をしたら幼稚園児でも通じるかもしれないぐらいの身長しかない。
ちょっと舌っ足らずで明るくて、意外に人懐っこい。
あの神格化された北大路来夢は、ちょっと珍しい女の子ぐらいまで一気に格が下がった。
だけど彼女がテストで常に満点を取るのは事実だし、もしかしたらこれも演技なのかもしれない。
「せっかくだし、あがってよ」と彼女はぼくの背後に回り込んでどんどん背中を押していく。
思春期のぼくが、ちいさな女の子の手の感覚に抗えるはずがない。
階段を登らされ、ぼくは北大路来夢の部屋に入った。
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