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「お茶、淹れてくるね」
来夢はまたトタトタとかいだんを降りていった。
…改めて部屋の中を見る。
他の女の子の部屋を見たことないからわからないけど、たぶんかなり物が少ないと思う。
机と本棚、こたつとベッド、ゴミ箱があるぐらい。
女の子の部屋にしては可愛らしい物の一つもない。
机の前に窓があり、左右に薄紫色のカーテンがある。椅子は来夢の身長に合わせてあるのだろう。
かなり高い。
その窓から外を見るとなるほど、たしかにぼくが雨宿りしていたバス停が見えるな。
来夢が言っていたのは嘘ではないらしい。
机には勉強していたのかノートと教科書、開きっぱなしの問題集が置かれていた。
あれ?この問題集…。
気になって覗こうとしたら、階段を静かに上がってくる音が聞こえた。
ぼくはなるべく静かに、素早くこたつの前に座った。
来夢が部屋に入ってくる。
お盆にお茶2つとせんべいが2枚置かれていた。
せんべいはおじさんのおつまみかな?
ずいぶん和風だ。
来夢はお茶をぼくの前に置いた。
「熱いから、気をつけて」
「あ、ああ」
ありがとう、とは気恥ずかしくて言えなかった。
なぜか来夢の前では少し強がっている自分がいる。
お茶に口をつける。
「わたしね、南野くん前から知ってたよ」
「え?」
思わずお茶を吹き出しそうになる。
告白されているかのような錯覚に陥ったのだ。
思春期特有の、あの謎の思い込みというやつだ。
「だって、わたしと名前似てるんだもん」
「そう、かな?」
「うん、わたしは来夢。南野くんは来人。ちょっと読み方いじったらライムにライト」
「あ、ああ。そうかもな…」
急にドキドキしてきた。
同じ学年のちょっとかわいい子にそう言われると、どんな奴でもドキドキするだろう。
それでも来夢に主導権を握られるのが嫌だった。
ぼくは話題を変えた。
「北大路ってさ、いつもテスト満点だよな。どんな勉強してるんだ?」
「え?わたし?んーと、授業で習ったことと教科書、あと問題集だよ」
問題集はたぶん、ぼくと同じやつだ。
「へえ」と言いながらこたつから立ち上がり、問題集を手に取った。
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