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「パパ~走ってもいい?」
私は右手で繋いでいた長女のナツの手を離して、「いいよ。改札の前にいるんだよ。」「うん❗」と言うと、ナツは信号を渡り終えると車が来る心配のない、駅までの連絡通路を勢いよく走り出して行った。それを見た次女の杏奈が、「待ってよ❗ネェネェ~」と言いながら、私の左手を離して、ややおぼつかない足取りで走り出して行った。
来年の4月には小学生になる長女のナツは、行き交う人の間を走って、角を曲がって見えなくなってしまった。杏奈は追い付けないのが分かり、角の手前で立ち止まると、少し悲しそうな顔をして、こちらを振り返り私が来るのを待っている。
(大きくなったなぁ)
と、嬉しさと寂しさの感情が同時に沸き上がってくる。もっと小さい頃から、一緒に手を繋いで歩いていたこの連絡通路を、最初は走っても転んでしまうのが心配で、寄り添いながら歩いていたのに、いつの間にか私が早足で追いかけるようになり、今は相当頑張って走らないと追いかけられないので、(もう走らないでよ)と思い、追いかけなくなってしまった。
途中で立ち止まっていた杏奈の手を繋いで、ナツの待つ改札に向かって歩きだした。
(もうすぐ手を繋いで歩いてくれなるなる日が来るのでしょう。)
(そんな遠くない未来に、口も聞いてくれなる日が、来るのかもしれない。)
(そしていつか、それぞれの道を見つけて、走り出すのでしょう。)
(その後ろ姿が、たとえ見えなくなってしまっても、ずっと見守っているよ。)
(君達の幸せを願いながら。)
待っているのが嫌だったのか、ただ単に元気が有り余っているのか、何故かナツが走って戻ってきた。肩で息をしながら、「アンちゃん❗ネェネェと手を繋ごう❗」差し出した手に「うん❗」と言った杏奈が、ナツの手を握り、私の前を並んで歩き出した。
二人並んだ、まだまだ小さな後ろ姿に、私は幸せを感じて、少し笑った。
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