壺を回して確かめる

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 間違いなくネズミ講だと思った。  子どもの頃の友人から突然、会いたいというメッセージが携帯電話に届いた。  彼とは成人式で軽く挨拶して以来、10年以上会っていない。小、中学校の時には仲も良く、話をしたり遊んだりもしたが、別々の高校に通いだしてからはほとんど交流もなかった。中学生の時には携帯電話なんて持っていなかったので、いつ連絡先を交換したのかさえ定かではない。そんな間柄だった。  にも関わらず、突然、会いたいと言う。  これはもはや、ネズミ講だとかマルチ商法だとか、そんな(たぐ)いの雰囲気しか感じられない。  僕だって(いたずら)に思い出を疑いたくはない。しかし、全ての符号が彼の悪意を示唆していた。  彼は僕を養分にしようとしている。  そうとしか思えなかった。  今まで特にそんな経験は無いのだが、このパターンで何らかの勧誘でないのだとしたら、一体何だと言うのか。僕は疑わざるを得ない。  ただ、断る理由も特に思い付かない。  どうしたものかと暫く考えはしたが、どう上手く勧められようが、こちらが鉄の意志ではね()ければ済む話でもある。僕が断固として正義を貫けば、いくら勧誘されようとも揺らぐことはないはずだ。  それに何だか腹が立ってきた。暫く見ないうちに人としての正道を踏み外し、あろうことか旧友までも悪に染め上げようとするその姿勢。断じて許すわけにはいかない。悪の道を突き進む旧友を是正し、人としての本道に連れ戻すことこそ旧知の務めではなかろうか。  そう思い、僕は彼を修正するため、会うことを彼に告げた。
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