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翌週の土曜日。休日。暑い。
本来であればこんな日は冷房の効いた自宅に引き込もってゴロゴロしていたいのだが、今日は彼と会う日であったため、僕の安寧と思惑は破られてしまった。どうせならもっと気温の落ち着いた季節に連絡をくれればいいものの、わざわざ真夏を選ぶあたり、酷暑で蕩けた頭を狙って口車に乗せようとする魂胆が手に取るようにわかる。その狡猾な姿勢も是正する必要があるようだ。
僕は吹き出る汗を拭いながら、彼の指定した喫茶店へと向かった。
待ち合わせ時刻の10分前に入店すると、見覚えのある人物が既に窓際のテーブルに座っていた。
記憶にある人相とあまり違わない。少しふくよかになったようにも見えるが、基本的な顔の作りや雰囲気は変わっていなかった。間違いなく奴だ。
それにしても、少し早めに到着してしまった気がしていたが、彼は営利目的でやって来た以上、さすがにビジネスマナーは欠かさない、ということだろうか。服装こそカジュアルな出で立ちではあるが、ビジネスの心得はあるようだ。僕は少しだけ感心しつつ、彼の周囲に気を配る。どうやら1人のようだ。彼が数の暴力を用いなかったことに安堵し、僕は彼の座るテーブルに近付く。
「久しぶりだな、ナスヤン」
昔のあだ名で彼を呼び、彼の対面に座った。
「おぉ、久しぶり。久々にそのあだ名で呼ばれたよ」
聞き覚えのある声質に、なんだか少し懐かしい気持ちになり気が緩みそうになったが、僕は努めて気を正した。僕が来た目的は郷愁に更けるためではない。奴を正すために来たのだ。
僕は店員にアイスコーヒーを注文した。
ナスヤンの手元には既にホットコーヒーが届いている。
この暑さの中、ホットコーヒーを頼む時点で、もう色々と怪しいのだ。
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