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スマホで、しょうとうだいと打った。「消灯だい」と候補が出る。ポメラで打つと「消灯台」と出る。とにかく、床頭台は素直に文字変換をしないので、サイドテーブルと書くことにする。
夕食後、そのサイドテーブルの引き出しを開け、しまっておいたスマホを取り出した。
私は小説の投稿サイトに恋愛小説を投稿している。小説の中の彼はスポーツマンでイケメンだ。そんな彼は私を愛している。主人公の泉美みゆきは今の私と同じ高校一年生で、名前まで同じだ。小説はウソ八百を並べられるので、ストレス発散に最適だ。
私はテレビを観ない。夕食のあとは小説を書くのを楽しみにしている。それは日課にもなっていた。食後のデザートに、先ほど買ってきた焼き芋を食べながらスマホをのぞき込む。焼き芋を食べるとおならが出たくなるが我慢する。
誤字脱字がないか探した。完璧だった。でも、読者数は増えていない。こんなにおもしろい小説なのになぜ誰も読んでくれないんだ。私はスマホを放り投げたくなった。まあ、いつものことだ。気にしない。気にしない。
それにしても、引き出しが気になる。真ちゅう製の取っ手は、掴む部分だけぴかぴかに光っている。そこには、悲しみや不幸が、喜びや幸福が染みついている。
さまざまな人たちがここに現れては、煙のように消えていった。本当に煙になった人もいるだろう。
どんな人たちがその取っ手を掴み、引っ張ったんだろう。おそらく、こんなことを考えるのは私くらいなのかもしれない。普通の人は、こんなつまらないことをいつまでも考えたりはしない。母が言うように私は変わっている。
その人たちは、引き出しの中にいったい何を入れていたのだろう。お見舞いにもらったお金だろうか。
もしかしたら、遺書をこの中に残してこのベッドで亡くなっていった人もいるかもしれない。その人には身寄りがいない。遺書には、財産のすべてをこの遺書を見つけた人に差し上げます、と書かれている。
空想は止まらない。
いっそのこと、この引き出しにまつわる話でも小説にしてみたらどうだろうか、私は迷う。
そんなことを考えながら、がたがたと取っ手を引っぱったり、押したりを繰り返していた。深夜に物音を立てても耳の遠いおばあちゃんには聞こえない。
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