入院

11/11
前へ
/66ページ
次へ
 引き出しは思ったよりも深かった。引き出しの長さは、テーブルの天板の大きさと同じなのだろう。私はゆっくりと、いっぱいまで引っぱった。  えっ? 何かがある。スマホの向こうの奥のほうに何かが入っている。さっきの遺書だ。財産はすべて私に……。  でも、そこには一冊のノートが入っていた。手に取った。学校で使うようなごく普通のノートだ。表紙や小口は少し日に焼けていて黄ばんでいる。  表紙をめくった。日付が入っている。日記帳だ!  驚いた私はおならをしてしまった。 「えっ?」おばあちゃんの声がした。 「あ、すいません」  耳が遠いのはウソだったのか……  表紙に東高二年、宮西光一と鉛筆で名前が書かれている。宮西くん!   日記は先生が書くような均整のとれたきれいな文字が並んでいる。  私の胸は高鳴った。  こうして彼の日記帳を手にしていることが信じられなかった。  私は夢を見ているのだ。明日の朝、目が覚めればきっと日記帳などどこにもない。  それでも私は食い入るように読み始めた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加