宮西君

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 たとえば、泉美が天使だということ。それを聞いたとき俺は目を丸くして驚いたけれど、篠崎の話をよく聞いてみると、髪があまりにつやつやして光っていて天使の輪が輝いているということに至った。俺は吹きだしてしまったが、泉美が天使だというのはまんざら誇張ではない。 六月十二日  泉美の存在が俺の中で、どうしようもなく大きな位置を占めつつある。篠崎によれば、どうやら泉美のまとう空気は周囲の女子たちとは違っているようだ。泉美は特別な存在なのだ。  泉美のことを、あきらめようと思えば思うほど、泉美に対する俺の想いは強くなっていく。  かといって泉美に近づくすべを知らない。俺は朝早く登校し、校舎の三階の窓から泉美が登校する姿を見つめるだけだ。  泉美に近づくには、必然的に誰かにキューピッド役を務めてもらう必要があった。俺は篠崎に頼むことにした。  もし、泉美に断られたら、いさぎよく忘れる覚悟はできていた。断られたらきっぱりと男らしくあきらめるのだ。 六月十八日  チャンスはやってきた。篠崎には、百回分の感謝を伝えなければならないだろう。篠崎が、フォークダンスは踊れるか、と訊いてきた。  小学生のときに踊ったきりで、自信がなかったが、もちろん踊れると答えた。学校の、とあるイベントでフォークダンスをやるのだという。そのフォークダンスに泉美は篠崎を通して俺を招待したのだ。  数日間、俺は篠崎の友人からフォークダンスの特訓を受けた。当日やるダンスをすべてマスターした。コロブチカからマイムマイム、タタロチカ、特に定番のオクラホマミキサーは完璧にこなした。 六月二十日  当日、体育館に向かっていると、会場の喧噪が聞こえてきた。俺の胸はときめき、期待と不安でいっぱいになった。すでに始まっていたのだ。会場に入ると、遠くのほうで手を振っている篠崎が見えた。  篠崎のすぐ隣に泉美が立っていた。二人ともまだダンスの輪に入っていなかった。俺は泉美を盗み見るようにその姿を確認した。純白のドレスを着ている。  その姿に俺は息が詰まってしまった。泉美はジュリエットだった。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の仮面舞踏会みたいだったのだ。俺は舞踏会に忍び込んだロミオだった。
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