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上品で清楚なイメージの泉美は、実は常に笑顔を絶やさない明るい女子だった。泉美の底抜けに明るい雰囲気が俺のストライクゾーンに入っていた。
二人だけでダンスの最中に逃走した光景は突飛すぎて注目の的になっていた。噂の的になっていたのだ。一年四組の美少女と二年の背の高い野球部がつき合っているという噂は、あっという間に蔓延していた。蔓延という言い方は正確じゃないかもしれない。でも、羨望の眼差しで噂は広がっていたんだ。
はっきりいって、俺は自分の浅ましさにうんざりした。俺は、一人では何もできない男なんだと痛感した。もし、篠崎がお膳立てをしてくれなかったら俺は泉美と知り合うことは永遠に叶わなかっただろう。
「篠崎君、最近私を避けるようになっちゃった」
ある日、ひとりごとのように泉美がつぶやいた。じつは、篠崎も泉美のことを好きだったんだ。泉美のことを嫌いな男子なんていない。誰もが皆、泉美のことが好きなんだ。
人の助けを借りるってのは、俺だけでなく誰もが経験することじゃないだろうか。人は誰かの助けを借りないと生きていけないんだ。ときには、気がついたら自分が誰かの犠牲の上に立っていた、なんてことだってありうる。
これまでの俺の人生を振り返ってみると、ずっと俺はそうして生きてきたような気がする。人に支えられて、今日この日まで生きてきたんだ。
いつか、俺は人を助ける側の人間になりたい。俺は医者になりたい。医者になって人を助けたい。
三月二十三日
あれから、泉美とはいろいろあった。でも、日記には書けなかったんだ。
どうしても書くことができなかった。もし書いたら、あとで読み直したら辛くなるのがわかっていたから。
俺は、泉美と交換日記をすることが夢だ。『交換日記』ってつぶやいてみる。なんて優雅な言葉だろう。メールとかラインなんかじゃだめなんだ。
泉美、もしこの日記を読んでくれたなら、どんな些細なことでもいい、君の日常をこの交換日記に書いて欲しい。
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