宮西君

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 これが最後の日記だった。よく見ると、最後のページの前に何枚もページが破られたような形跡がある。そこにはいったい何が書かれていたのだろう。いったいなぜ破ってしまったのだろう。それにしても、あまりに突然のことに私は日記帳を見つめたまま呆然としていた。  『交換日記』をスマホで検索してみた。それによると、交換日記とは日記の一種で、友人間で共有し、順番に回して日記をつけたり、相手へのメッセージを書き込んで……。  私はすかさずペンを取ると、記憶をたぐり寄せながら書き始めた。  三月二十六日  泉美です。久しぶりです。お元気そうで安心しました。病室のサイドテーブルの引き出しから宮西先輩、あなたの日記帳を見つけました。先ほど読み終えたところです。先輩がこんな文章を書くなんて知りませんでした。まるで小説でも読んでいるみたいでした。  それにしてもこの日記帳、いつ私の引き出しの中に入れたんですか? もし私が日記を書いたら明日取りに来るんですか?  とにかくとても驚きました。でも、先輩の要望に応えて私、交換日記を書いちゃいます。あの……宮西先輩のこと先輩じゃなく、いつものように宮西君って呼ばせてください。  私の日常はとても退屈です。そんな退屈な文章を読んでもつまらなくてやっぱり、退屈してしまうんじゃないかと思います。  あの日のこと、よく覚えていますよ。降りしきる雨をじっと見ている宮西君の姿は、男の人なのにとてもナイーブで、とてもすてきに私の目には映ったんです。ナイーブというよりロマンチックというほうが正確かもしれません。  ですから、そのとき私が笑顔だったのは決して宮西君がこっけいだったからではないんです。とにかく、そんなわけで私は声をかけずにはいられなかったんです。  私はずっと宮西君のことは知っていました。宮西君のことはクラスの女子がいつも話題にしていたからです。  でも、宮西君は二年生だし、一年生の私とは顔を合わすことはめったにないので遠い存在だったのです。  でも、初めて言葉を交わしたあの日よりずっと前に、私は宮西君を見かけています。
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