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入学してまもなくの昼休みでした。購買の前にいたときのことです。普段は静かな購買の前はとても混雑していました。その喧噪を逃れるかのように宮西君が数人の男子と一緒に歩いていたんです。
背が高くて、目立つ容姿の宮西君が際だっていました。近くにいる女子たちがちらちらと宮西君のほうを見て何か耳打ちしていました。
私は聞き耳を立てました。イケメンとか、かっこいいとか聞こえてきました。宮西君は一年のクラスにまで噂になっていたんです。
フォークダンス、いえ、キャピュレット家の仮面舞踏会は楽しかったです。宮西君が会場に入ってきたとき、私の周りの女子生徒たちが会話を中断して宮西君のほうを一斉に見たのに気づきましたか。ダンスの輪の中に入ったとき、数人の女子が宮西君の隣に割り込んできたのに気づきましたか。
宮西君は仮面こそかぶっていなかったけれど、ロミオだったのです。結局、あなたはキャピュレット家の一人娘の私をさらってしまったのですね。
初めて私が篠崎君から宮西君のことを聞いたのは、イベントの一週間ほど前でした。
私も宮西君にならって、そのときのことを小説風に書いてみようと思います。
では、始めます。
放課後で、里沙子ととりとめのないおしゃべりをしているときだった。突然、篠崎君が「ううーす」と私たちのところにやってきて、
「里沙子、ごめん、泉美とちょっと話が……」
篠崎君にそう言われた里沙子は、髪の毛をいじりながら怪訝な顔で私を見て「じゃあ、また明日ね」と離れていった。
「宮西先輩がお前のことを好きなんだって」
篠崎君は私に近づき、耳元で単刀直入にそう言い放った。篠崎君の声には少し口臭が混じっていた。
「宮西?」
私は口元に手を当てて訊いた。
「ああ、宮西先輩だ」
私はどういう反応をしたらいいのかわからず黙っていた。
「なんなんだ、その余裕……」
「誰よ、それ」
私はしらばっくれた。
「お前、マジで言ってんの?」
篠崎君は不満げに腕を組んで、いらだちのポーズをとったので、私はおかしくなり笑ってしまった。
「やっぱ、からかってたんだな」
「で、何が言いたいの?」
「今週末の土曜日のイベントでフォークダンスがあるんだ」
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