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「うん」
篠崎君は、人差し指でコンコンと机をたたいた。
「宮西先輩と踊って欲しいんだ」
「えっ? 私が? やばいよやばいよ、大騒ぎになるよ」
宮西先輩といえば、日常的に女子が話題にしている野球部の先輩だ。大会でも常に活躍し、成績も優秀だし、女子全員のあこがれの存在だった。そんな彼と踊ったら、まわりの女子たちは確実に私を羨むだろう。嫉妬や反感を買うことになるだろう。自分の浅ましさに私は耐えられるだろうか。
「大丈夫、何か言う奴がいたら、俺がついているから」
私は小さくうなずいた。
「じゃあ、土曜日にな」
そう言うと、篠崎君はあの口臭とともに消えてしまった。これからグラウンドに戻って、このことを宮西君に伝えるのだろう。
とまあ、小説風に書くとあの日はこんな感じだったんです。へたくそでごめんなさい。
今考えると、それが私と宮西君とのすべての始まりだったんですよね。
さて、私は病気で入院するのは生まれて初めてです。
最初はただの風邪だと思ったのですが、頭痛がひどくなかなか熱も下がらなかったのでこの病院に入院したってわけです。
でも、今はおかげで全快していつ退院してもいいような状態です。それでも先生はもう少し様子を見たいと言っています。でも、あと一週間ほどで退院できそうです。
そこまで書くと日記帳を閉じた。ちょっと調子に乗りすぎて長々と書きすぎたかな、と思った。
日記帳を引き出しの奥の方に入れ、その上にスマホを置いてそっと閉めた。
時計を見ると、十二時を過ぎていた。急いでベッドにもぐり込んだ。
毛布にくるまって目を閉じる。でも、私は手をのばして音を立てないようにそっと引き出しを開け、日記帳が本当にあるのかのぞいてみた。日記帳はあった。引っ張り出して、さきほど私が書いたページを開いた。私の下手くそな文字が並んでいた。
今のところ、これが夢ではないということを私は確信した。宮西君は日記帳を取りに明日現れるのだろうか。それとも日記帳は消えているだろうか。
夢ではないけれど私は今、空想か小説の世界にいるのだろうか。
それとも、やはり現実の世界にいるのだろうか。私はしつこくもう一度静かに引き出しを開け、日記帳があるかどうかのぞいてみた。
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