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電話のあと、いても立ってもいられなくて会いに行ってしまいました。ごめんなさい。散歩のとき、宮西君は私の肩を抱きながら歩いてくれたんだよね。それは初めてのことで、すごくうれしかった。
さて、私の今日の日常です。
午後、二人見舞い客がありました。
一人は相川早苗。彼女はキャラメルコーンを手にやってきました。ここの売店には売っていないので彼女に頼んでおいたんです。
では、そのときの様子をおだてにのって小説風に描写してみます。
私はキャラメルコーンを口に放り込みながら、早苗の軽音楽部の愚痴を聞いていた。
早苗はクラスメイトではないけど、私と同じ軽音楽部に入っていて、ベースギターが上手だ。バイオリンも弾ける。
彼女はとてもおっとりしている。その上老け顔なので年齢が二つくらい上に見える。私と同じ十六歳なのにとてもしっかりしている。
早苗はお弁当のおかずを私の分まで作って持ってくる。お母さんが料理が得意で、いつも一緒にお弁当のおかずを作るそうだ。
無言でキャラメルコーンをほおばっていると、早苗が突然訊いてきた。
「ねえ、泉美、小説はどう?」
ネットに投稿している小説のことだ。
「だめ、誰も読んでくれない」
早苗だけが唯一の読者で、読了したのは彼女だけ。他の人は読んでも最初の数ページだけで、それ以上読む人はいない。
「そっかあ、残念ね」
早苗はそう言ってキャラメルコーンの袋に手を突っ込んだ。
「それにしても宮西君の文章にはまいった。すごく上手なんだ」
「誰それ?」
しまった、内緒になっていたのを忘れてた。
「あっ、いや、なんでもない……」
早苗はゆっくりと下を向いた。表情を見て彼女の胸中が私には想像できた。
早苗は男子に関心がない。それともただ苦手なのか、男子の話をすることは皆無。そもそも恋バナを受けつけないのだ。
彼女は、容姿に自信がなくて、はっきりと自分のことをブスだと言う。だから、誰と誰がメール交換してるとか、つき合っているとかいう話をすると思い切りいやな顔をする。
「ところで、泉美、最近ちょっと変わった?」
早苗は私のことをじろじろ見て言う。
「変わったって、なにが?」
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