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趣味は何かと問われれば、ギターの弾き語りと答えたいところだが、絵画鑑賞と答える。映画鑑賞ではない。特に北斎の浮世絵が好きだ。だから北斎の美人画のように、髪はいつも乱れたほつれ髪が頬をさわっている。私の前世は江戸時代の遊女だったのかもしれない。
私は他の人より想像力が優れている。友人たちからは空想家だといわれている。悪くいえば『ウソつき』ということになる。母によれば私がウソつきなのは、おばあちゃんゆずりだという。私の血は父母や祖父母から受け継がれている。私の特質はおばあちゃんから受け継いだものだ。血筋は争えない。でも、私は認知症などではない。
小学生のとき、私があまりにウソばかりついているので母が心配した。それで心療内科に連れて行かれた。医者は診断した。全く心配ないですよ、大人になれば治ります。
今、十六歳なので、まだ少しおかしい。
そういえば、私の担当医の根岸先生から聞いた話だ。母は、入院のついでに私を心療内科の先生に診させたいと言ったそうだ。でも、私のことをよく知っている根岸先生は、その必要はないとはっきり断ったという。
根岸先生は内科医でありながら、じつは精神科医でもあるという。何か事情があって精神科医をやめたらしい。あくまで噂なので真相はわからない。
私は病室の窓拭きをすることにした。窓の汚れが気になっていたのだ。
「おばあちゃん、窓を拭くね」
おばあちゃんはテレビに釘付けになっている。私は鼻歌でリズムをとりながら窓拭きを始めた。
私は声量がある。歌は『少年時代』だ。はじかれるギターの弦のイメージを頭に浮かべながら歌い始める。ギターのコードはカノン進行だ。おばあちゃんにはたぶん聞こえていない。
私は自分に自信がない。欠点だらけの人間だ。でも、歌だけはうまい。ギターも弾ける。弾き語りができる。軽音楽部に入っているからだ。
中学一年のとき、ギターで弾き語りをしている私を親友の早苗が撮影し、勝手にネットの動画サイトにアップした。そしたら、一週間で一万回も再生された。
もっと歌って欲しいという要望に応えて、高校一年になった今、自作の曲を披露した。そしたら、今度は二万回も再生された。
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