1人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうも、ありがとう。うれしい。でも、うら若い乙女にお芋をくれるなんて、ちょっと失礼じゃない?」
私の声には、なぜか微妙に媚びがまじっていた。柴田君の泳いだ視線が気になる。私なにか変なこと言った?
「いらないなら、俺がくうよ。腹ヘってるし……」
「いや、大丈夫です。オラがくう。ありがとう」
いただきます。私は焼き芋の皮をむき始めた。細長い芋は甘いのだとおばあちゃんが言っていたのを思い出す。
食べると、ねっとりした食感で確かに甘くて、その甘さは濃厚だった。
おばあちゃんが隠れて食べていた理由がよくわかる。柴田君がじっと私を見ている。気になる視線。
「ちょっ、ちょっ、ちょっとだけ味見させろ、俺にも……」
柴田君がどもった。
「だめだ、だめだ、だめだ」
呆けたように私が一生懸命にほおばる様子を眺めている。手にはスマホを握りしめている。
「泉美は早食いなんだな」と笑う。
人からそう言われたのは初めてではない。人に食われてしまう前に食うのだ。
でも、その言葉が非難めいて聞こえるのはあらゆる自分の悪癖を直せないからだ。自分の心が弱いせいだ。
柴田君はあきれたように、私を観察している。
「そんなに私のこと見ないで。そんな写真機なんか握りしめて、また写真を撮るなんて言わないでよ」
「写真機?」
「そうよ、ここではそう言うの。これは床頭台っていうのよ」
私はサイドテーブルを指さした。
「へえ」
柴田君は感心したようにサイドテーブルを見つめる。
「このベッドのことなんていうか知ってる?」
私は座っているベッドを指さした。柴田君はベッドを眺める。
「ベッドはベッドだろ」
「これは寝台っていうの」
「死んだ?」
「ばか、ここは病院だよ。寝る台と書いて寝台っていうの。そんなことも知らないの?」
いささか喧嘩腰に言うと、いや、からかっただけだ、とでもいうようにニヤニヤ笑いながら窓の外に顔を向けた。
柴田君が何を考えているか手に取るようにわかる。帰りに焼き芋を買って帰る魂胆なのだ。実際、視線の先は焼き芋屋さんだ。
「さっき撮った私の写真はどうするの?」
「送るんだ」
スマホをいじり始めた。
「誰に……」
「先生に」
最初のコメントを投稿しよう!