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人差し指でしきりにスマホをこすっている。
「なぜ?」
「先生が心配してたから……ここに来たのも、先生に言われたからなんだ。お前、無事に二年に進級できるそうだ」
「そっか、ありがとう。写真うまく撮れた?」
柴田君はスマホの画像をこちらに向けた。スマホを耳に当てて、里沙子と会話している私が影絵のように写っている。逆光であまりよく撮れていない。
私は知っている。柴田君は先生に写メを送ったりはしない。私の写真が欲しいのだ。
「軽音楽部の吉岡先輩も来て、私の写真を何枚も撮って帰った」
「まさか、あいつが来るとは思えない。先輩には彼女がいるんだ。お前の見舞いに来る男子は俺くらいだ」
私は紙袋に書かれた文字を指でなぞりながら「安納芋」と言った。ウソがばれたようだ。最近、ウソをつくのが下手になった気がする。それにしても私は傷ついた。
「それより、退院したらみんなでどっかに行こうよ」
「安納芋……」
無視して、思い出すようにお芋の名前をつぶやいた。
「なんだ、スルーかよ……」
「えっ、それってデート?」
「違うよ、退院祝いに、里沙子と三人でカラオケなんかどうかなって思って」
「考えておくよ」
「そうだ、お前、メアド教えてくれないか」
柴田君はポケットをさぐって、丸まった紙切れをおもむろに差し出した。これに書けというのか。マックかミスドの紙ナプキンのようだ。私の手の上に載せられた紙ナプキンは黄色いシミがついている。薄汚れていて、いやな臭いもする。貼り付いていて、広げると破れた。
「うわっ! お前、これで、おしりを拭いたんじゃないのか!」
私の大きな声にうろたえた。
「ばかな! 鼻をかんだ」
柴田君はあわててポケットに手を突っ込むと別の紙切れをさがしている。取り出した紙切れがぽろっと床に落ちた。丸まっている。
私は、さりげなく鼻をつまんでゴミ箱に投げ捨てた。柴田君のこういう雑なところが嫌いなのだ。メモ帳を一枚やぶってメアドを書いて渡した。最初からメモ用紙に書いてやればよかった。
でも、鼻をかんだ紙切れをその辺にポイ捨てしないでポケットに入れておくというのは見習うべきかもしれない。でも、それはあえて伝えない。
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