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「おう、ありがとう。あとで、さっきの写メ送ってやるよ」
「柴田君、あと、一週間位したら退院するって先生に伝えてくれる?」
「先生はもう知ってるよ。里沙子が言ったんだ」
「そうなんだ」
柴田君は、映画を観に行ったという。その映画の感想を長々と語ってくれた。女の子と一緒に行ったというが、名前を言わないので本当かどうか疑わしい。
やがてスマホをジーンズのポケットに押し込むと、いつもの野太い声で「じゃあ、また来るわ」とつぶやいた。
柴田君は、女子のように笑顔で小さく手を振って病室を出ていった。
「今のは、あんたの彼氏かね?」
おばあちゃんが、イヤホンをしたまま目を細めている。
「いいえ、違います。ただのクラスメイトです」
笑顔でうなずくと、またテレビに顔を向けた。おばあちゃんはよく聞こえていないので、きっと表情で理解したのだろう。おばあちゃんの笑顔にはなぜかほっとする。
それにしても、柴田君がくれた安納芋はおいしかった。さっそくあとで買いに行こう。おばあちゃんにも一本差し上げよう。お金なら冬休みにバイトをしたのでたっぷりあった。
バイトといえば、私は里沙子と一緒にスーパーでバイトをしていた。
そのときこんなことがあった。総菜売場で品出しをしていたときだった。通りかかった青果売場のチーフが足を止めて、私をじろじろ見ていた。
「泉美さん、かわいいね」
また、精肉売場のチーフが豚肉を並べながら、私の体をいやらしい目で見ながらつぶやいた。口元を見るとよだれが垂れている。
「今が一番おいしいときだね」
ブー、オラは豚か!
品出しのため売場を歩くと、いくつかの視線を感じる。若いカップルの男のほうが私のことを見ていた。
かごを持った中年の男性が、商品をかごに入れながら、私のほうをちらちら見ていた。
みんな私に近づきたがっている。私がどんな笑顔で笑うのか。私がどんな風に唇を動かすのか。私がどんな声を出すのか。私のロングヘアからどんな香りが漂うのか。キスのときどんな風に目を閉じるのか。みんな知りたいのだ。
また、バイトの最終日に仕事を終えてロッカー室で着替えていたら、里沙子が声をかけた。
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