そこにいる

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鬼の子は木の上で木の実をかじっていた。 ぱさぱさしておいしくないなぁと思いつつ、腹が減っていたので、ろくに噛まずに飲み込んでなんとか腹の足しにしようとしていた。しかし、あんまり足しにならない。 鬼の子はまだ自分で肉を獲ったことがなかった。山の動物たちは鬼の子の友だちで食べる気にはなれなかった。山の動物たちの肉と知らずに鬼たちが獲ってきた肉を食べたことはあるが、味が好きではなく、食べきれなかった。 でも肉を食べないと生きていけないので、鬼の子は味のまずさと、友だちを食べていることの苦しさに涙を流しながら無理矢理食べさせられていた。 鬼の子は生まれて十年が経った。 もう自分で食べる肉は自分で獲らなければいけない。しかし、未だ自らの手で狩りを行ってはいない。友だちだった山の動物たちは、鬼の子が狩りを始める歳になったことを知ると、鬼の子に近づかなくなった。それが、鬼の子には寂しかった。 最近はもっぱら木の実や山菜を食べ、川の水で腹を膨らませていた。腹は膨れても満たされない食事が続き、そろそろ限界を迎えようとしていた。 このまま死んじゃうのかなぁ。 まぁ、それもいいかな、つまんないし。 鬼の子は昼寝をすることにした。寝てしまうことで、空腹を忘れようとしたのだ。目を閉じて、風が木々の葉を揺らしていく音を聞いていた。鬼の子は風が鳴らす音が好きだった。木の上はそれがとてもよく聞こえる。うとうとと舟を漕ぎ始め、もうすぐ夢の中に落ちていける——— と、その時、風がせかせかとした音を運んできた。鬼の子は耳障りな音が気になり、目を開けた。音のする方向に目をやると、何かがこちらに向かってくるのが見えた。
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