ひつじが一匹

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「パパかママとはぐれちゃったのかな?お兄さんと迷子センターに行こうか」  予想に反し女の子は俺に怯えた表情をして、なぜかさっきよりもわんわんと泣き出してしまったのだ。  何事も要領良くこなしてきた俺だが、子どもの相手は全く慣れていない。  これは手に負えないと、近くにいるスタッフに応援を求めようとした時だった。 「お姉ちゃん、君も『綿毛の森』に行くところなの?」  羊のパペット型のぬいぐるみが、女の子に優しく話しかけた。  いや、実際はそのぬいぐるみを手にはめた華奢な男が話しかけていた。  上半身を軽くかがませるだけだった俺と違い、その男は女の子の前で片膝を地面に付き目線を合わせ、高い声を作っている。 「……うん、シープちゃんに会いたいの」  女の子は涙を流しつつも、ぬいぐるみと会話を始めた。 「おおなんと! 君はシープ姫に会いに行くんだね! 僕はシープ姫の家来の羊、ゴンザレスっていうんだ。ゴンちゃんって呼んでね」  ゴンザレスという名前の響きが面白かったのか、女の子はキャハハと笑った。 「ゴンちゃん!」  ゴンザレスは大袈裟に口をパクパクさせ、嬉しさを表現している。  女の子の手をぎゅっと握り、早速仲良しになったみたいだ。 「……実は、僕もシープ姫がいる『綿毛の森』まで行きたいんだけど、お友達とはぐれちゃったんだ」   ゴンザレスは弱気な声でガックリと肩を落とす。  女の子はその様子を心配そうに見つめている。 「お姉ちゃん、もしかしたら迷子センターに、僕のお友達のドリアンくんがいるかも……」  わざとらしくチラッチラッと女の子に目配せするゴンちゃん。  すると女の子はゴンちゃんの頭をなでなでしながらニカッと笑った。 「アタシが一緒に行ってあげる」  こうして女の子の心をばっちり掴んだゴンちゃんは、無事に迷子センターに連れて行かれた。いや、女の子を連れて行った。  ――何だったんだ、あの天使は。  あの華奢な男の、笑顔も声もゴンちゃんの見事な演技も、俺はこの一瞬で全て引き込まれたのだった。   「楓さん、好きです! 俺と付き合ってください」 「え、やだ」  俺の全力の告白は、一蹴され続けた。  最初こそは、「俺が男とホテル行った噂聞いて冷やかしてんだろ?」と本気であることを信じてもらえなかった。
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