僕は生きないといけない

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 僕は生きなければならないんだ。でも、生きることを否定する奴らがいるんだ。 ーーーーー  僕はある小さな町で生まれた。そして1番近くの、市では1番小さい小学校で育った。蓮とはそこで仲良くなった。  家が同級生の中で1番近い人物だったし、帰る方向も同じだった。家が近い、といっても隣町だったけど。僕たちは毎日一緒に帰った。  二年生になった頃、僕たちは毎日遊んでいた。蓮の町の公園でかくれんぼをしたり、僕の町の広場で鬼ごっこをしたり。とても楽しかった。  四年生になると、それまで僕の方が身長が高かったのに、蓮が僕の身長を抜かしたのだ。僕は少し不貞腐れた。追いついてやろうと必死だった。  五年生になると、僕たちには好きな人ができた。それまで、好きなフィギュアや好きな漫画が同じだった僕たちは、好きな人も同じだった。そこで僕は蓮と少し距離を置いた。蓮は僕に毎日話しかけてくれたが、僕は無視した。嫉妬からだった。  聞いてしまったんだ。女子たちの会話を。あの子の好きな人の名前を。 「ねぇ、楓の好きな人って誰なの?」 「え、えぇ?えっと……れ、蓮くん…かなぁ。」 「キャーほんと!?蓮くんカッコいいよね!」  聞きたくない言葉だった。その頃にはもう、蓮のことが嫌いになっていた。    蓮は僕の欲しいものを奪っていった。あのカッコいいフィギュアも、僕は買ってもらえなかったけど、蓮は買ってもらっていた。身長だって抜かされたし、テストの点数もいつも蓮の方が上だった。蓮はスマホを三年生の時にもらっていたけど、僕は六年生まで買ってもらえなかった。初恋だって叶わなかった。  卒業式の日。蓮は僕にLINEを交換しようと言ってきた。  六年生になったとき、蓮は僕を無理やり昔遊んだ広場に呼び出した。そこで、殴られた。僕も殴った。もうヤケクソだった。 「俺は、夏樹と友達でいたいんだ!中学に行っても、ずっと友達でいたいから…!なのに、どうして無視するんだよ!」 「…お前が僕からたくさん奪っていくから!蓮が悪いんだよ!」 「奪うって…奪ってたのは夏樹の方だろ!?」 「はぁ!?なんでだよ!だって、あのフィギュアも、楓ちゃんも!お前が奪って行っただろ!」  強い風が吹いて、僕たちを春の日差しから守っていた桜が揺れる。 「なんの話だよ!?楓ちゃんはお前のことが好きなんだぞ!?」  蓮は五日前、エイプリルフールに楓ちゃんに告白したらしい。そこで振られたことを僕に教えてくれた。  楓ちゃんは僕のことが好きだからごめん、といっていたらしい。僕は女の子は目移りしがちなんだと思った。嬉しくはなかった。もう楓ちゃんのことなんか忘れていたから。 「しかも夏樹は、俺より足速いし、頭のいいお兄ちゃんもいるだろ!夏樹だって、たくさん奪ってるんだよ!」  蓮も同じ気持ちだったことが分かって、僕は笑った。ホッとしたんだと思う。 「…な、なんだよ…」 「いや、蓮も同じ気持ちだったんだなって。なんか面白くなっちゃって。」 「なんだよそれ。ひどいぞ。」  僕たちは春風を受けながら笑いあった。仲直りできたんだ。すごく嬉しかった。  卒業式の頃には前よりも仲良くなっていたから、LINEを交換して、僕たちは違う中学校に行った。その間も、よく遊んでいた。 ーーーーー 「…?」  特徴的なLINEの通知音に起こされて、時計を見る。深夜二時。こんな時間に誰だよ。  画面を見ると、LINEは蓮からだった。 『レン:夏樹、高校どこ行く?』 『ナツ:夜遅いぞ。どうした急に。寝てたんだけど。』 『レン:ごめんwいや、今日進路調査あってさ。気になって。』 『ナツ:僕はA高にしようかと思ってる。蓮は?』 『レン:マジで!?俺もA高にした!一緒に高校行こうな!』 『ナツ:え!?マジ!?うん、僕絶対合格する!』 『レン:うん、がんばろーな!じゃあ、おやすみ!』 『ナツ:うんおやすみ!』  僕は高校生活が楽しみになった。その日から猛勉強した。  でもある日、蓮の母親から電話がかかって来た。 ーーーーー  自転車を漕いだ。中学校に遅れそうになった時よりも全力で漕いだ。これが運動部の実力か…と僕は心の中で思っていた。  息を切らして自転車置き場に自転車を置く。初めてくるから、少し怖かったけど、勇気を出して自動ドアを通った。  そこは蓮が入院する病院だった。  教えられた通りにエレベーターに向かう。三階の東側…ここの部屋かな。  ガラガラとドアを開ける。そこは一人部屋で、ベットがひとつ置かれていた。その上には見慣れた僕より身長の高い、勉強が好きそうな男がいた。 「夏樹!?なんで、ここに…?」  ドアの開く音に驚いてこっちを見る蓮。ノックすればよかった…かな。でも、急いでいたし、蓮とはやく話がしたかったから仕方ない。 「なんでって、それはこっちのセリフだよ。なんで入院したって教えてくれなかったんだよ。」  僕は泣きそうな声でそう言った。もしかしたら泣いていたかもしれない。 「僕たち友達でしょ…なんで相談してくれなかったんだよ。」  僕の声のあと、病室に沈黙が続いた。あれは何時間あったんだろう。本当は三秒ぐらいしかなかったかもしれない。僕には三時間程に感じた。 「ごめん」  蓮は泣きながらそう言った。 「ごめん、夏樹。俺が病気のこと隠してて、ごめん。」  蓮は病気を患っていた。昔から妙に体が弱いと思っていたが、病気が原因だったのだ。 「三年前、卒業式のあの日。夏樹に殴られたときすごい痛かった。それと同時に夏樹は俺以上の力を持っていて、俺より体が強いことが分かった。」 「…」  僕は泣きながら話す蓮の話を聞いてやることしかできなかった。 「夏樹と友達で居たかった。もし俺の病気のことを知ったら嫌われるかと思って、言えなかったんだ。ごめん。」 「嫌いになんて、ならない。そんなことで蓮を嫌いになったりしない。ていうか、早く言ってくれないと、蓮に無茶させてたかもしれないだろ。」  蓮のお母さんからの電話は「蓮が倒れて病院に入院した。」という内容だった。中学校の友達と遊んでいるときに急に倒れたらしい。無理をして、周りのみんなについて行こうとしたからだと先生は言っていたらしい。 「うん…」 「もう隠し事すんなよ。それと。」 「なに?」 「絶対治して、絶対高校こいよ。」 「わかってる。約束だな。」 「…うん。約束。」  その約束が守られることはなかった。  蓮は一月に病気が悪化して、亡くなった。 ーーーーー  春風が気持ち悪い入学式。俺は周りが幸せムードに包まれる中、一人寂しく登校した。 『俺は一人じゃない。』  俺は蓮の分までこの高校生活を過ごすんだ。そう、入学する前から決めていた。蓮みたいに勉強ができるようにならないと。その想いで中学校最後のテストでは学年一位をとった。俺の心の中には蓮がいる。蓮と一緒に過ごすんだ。  でも何故か、虐められてしまった。  あいつらは毎日俺に「死ね」と言ってくる。生きる意味がないとか、存在が邪魔とか。俺は生きなければならない。決して死んではいけない。  俺は夏樹であり、蓮なんだ。  俺は蓮の分まで生きるんだ。 ーーーーー 「蓮。俺さ。あ、僕か。」  思い出の桜の木の下で蓮に話しかける。 「僕さ。お前の分まで生きるから。」  僕には聞こえる。ありがとうという声が。  蓮の、感謝の声が。  僕は。俺は。正しいはずだから。
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