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その後、少年の周りで事故や事件が何度も起きました。 誰かのうっかりで人はケガをしました。 誰かのいたずらで人は死にました。 そのたびに病気は治っていき、元気になっていったのです。 両親は不気味に思いました。 まるで魔法にでもかかったかのように、体が治っていく。 それらの事柄と少年の病気に繋がりがあるのではないかと、頭を抱えて悩んでいました。 眠ることすら辛そうにしていた彼が元気に走り回っているだなんて。 呼吸することすらままならない彼が楽しそうにしているだなんて。 「信じられない」 二人は口をそろえて言いました。 少年を病院へ連れて行くと、匙を投げた医者も眼を丸くして言いました。 「何が起こったんだ」 「こんなことは考えられない」 本当に奇跡が起こったかのようでした。 医者は彼に興味を持ったようでしたが、両親は彼を連れて遠くへ行きました。 世間に出たら、バケモノのように扱われるのは目に見えていたからです。 おそらく、これまで以上の地獄が待っていることでしょう。 何かから逃げるように遠い場所へ引っ越してから、二人は彼を避けるようになりました。 神様から呪いを受けて生まれてきた。それは分かっていたことでした。 ずっと守っていくことを覚悟して、今まで耐えてきました。 少年を蝕んでいたはずの呪いが消えた。 ふつうの子どものように暮らせるようになった。 嬉しいことのはずなのに、素直に喜べませんでした。 いつ死ぬかも分からなかったのに、元気に走り回っている姿があまりにも恐ろしかったのです。 こちらに来てから、少年は毎日外で遊ぶようになりました。 新しく友達もでき、その子の名前は   といいました。 とても近くに住んでいたので、二人はいつも一緒にいました。 朝になったら公園で会って、夕方になったら二人とも帰って行きました。 少年にとって、家族以外の誰かと一緒にいるのは初めてのことでした。 新しいことを知って、楽しいことをするのが本当に嬉しくて、これまでの生活からは考えられないことでした。 本当に生まれ変わったように、毎日ニコニコと笑っていました。 両親からも特に聞かれませんでした。 バケモノと一緒に遊ぶ子どものことも、聞きたいとは思わないのです。 ある日、いつものように公園に行きました。 ベンチにぽつねんと座っているのを見て、すぐに駆け付けました。 「おはよう」 いくら声をかけても、うつむいているだけなのです。    はメモ張を取り出して、見せました。 『ごめんね。耳が聞こえなくなっちゃったの』 それだけで十分でした。 少年の幸せな日々と引き換えに、その子の世界を奪ったのです。 今まで彼を治してくれた魔法がその子の大切なものを奪ったのです。 「ごめんなさい」 その子を抱きしめ、泣き続けました。 これ以上の不幸から守ることを誓い、もう二度と誰からも奪わないように願いました。
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