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それ以来、俺は体中に包帯を巻くことにした。 今まで起きた事件は全て自分が押し付けてきたようなものだった。 頭、腕、脚、腹、首。思いつく限りぐるぐると。とにかく巻いた。 それだけでは物足りないような気がした。だから、右眼には眼帯をした。 世界が少しだけ閉ざされたが、今までと大して変わらなかった。 そもそも、最初から歪んでいるのだ。あまり気にはならなかった。    は心配そうな表情でずっと見ていた。 「心配いらないよ」 俺がそういうと、少しだけ笑った。 両親は何も言わなかった。 ある日、母からお使いを頼まれ、   と町を歩いていた。 よく晴れた、雲ひとつない青空が広がっていた。 ただ、全てが何重にも重なって見える。 ぼやけている視界を恨む訳ではないが、もっとはっきり見えているなら、どれだけ美しいだろうと思う。 死ぬしかなかった自分が今、こうして生きているという事実がありえないのだ。あれだけ悩まされた病気が全てどこかへ行った。 なんてことはない。ずっと誰かに押し付けて生きてきただけだ。    の耳が聞こえなくなった瞬間、理解してしまった。 神様はとんでもない物を残して消えてしまった。 自分の願いを叶える代わりに、誰かが犠牲になる。 だから、何も言わないことにした。 口にしただけで、誰かが傷つくような気がした。 交差点の信号が赤から青に切り替わった途端、道路のど真ん中にふらりと男が現れた。通せんぼするかのように両手を広げた。まるで舞台役者の様だ。 太陽に反射して輝く鮮やかな赤色の髪に、あまりにも長くて地面につきそうな同じ色のマフラーをしている。 俺は   を後ろに隠した。 男はピエロにでもなったかのように楽しそうに手を広げ、目の前まで近づいた。 「やあやあやあ! 初めまして! そんな警戒しなくてもダイジョーブよ? 俺は君たちの味方だから!」 「……何ですか。突然」 「まあまあ、そんなこと言わないでさ? 仲良くやろーよ!  ていうか、まだ名乗ってなかったね。俺は菊月!  きっくんって呼んでね!」 「何の用ですか?」 「君たちと話がしたいんだ」 なぜ、この男は俺たちのことを知っているのだろうか。 ずっと笑顔を絶やさず、壊れた機械のように喋り続ける。 「何と言っても俺は魔法使いだしねえ?  知らないことなんてある訳ないって! その証拠にさ、   くんの耳と俺の耳を交換しようよ」 「ダメです」 「君が答えちゃだめだよ。 後ろの   くんに聞いてるんだから」 「ダメな物はダメです」 「まるで母親みたいなことを言うんだね?」  男は人さし指をふいっと横に振った瞬間、   が手を離した。 口をぱくぱくさせながら周囲を見回し、彼をじっと見ていた。 「ごめんね? もう貰っちゃった!  これは神様の気まぐれ? いえいえ。そんなことはありません。 現実じゃないみたい? いーえ。現実ですよ?  れっきとした真実です!  さて、君の耳はもう俺の物だ。ほらほらぁ、よく聞こえるでしょお?  今までの無音世界とはおさらばだ!」 その場でステップを踏んで、狂ったように踊りだす。    は俺の後ろに隠れ、服をぎゅっと掴んでいた。 目を大きく開いて、首を横に振っていた。
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