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俺の名前は日高雪乃(ヒダカユキノ)。
24歳、根っからの同性愛者にして、普通のサラリーマンだった。
大学を卒業して、無難な中小企業にアッサリ内定が決まった。
あの時はサラリーマンとして、ただ普通の男として、いつか結婚して、いつか親に孫を見せて、自分の使命みたいなモノを果たせば、いつ死んだってどうでも良い人生を社畜にでもなって過ごして行くんだと思ってた。
あの日、庵司に出会うまでは。
満員電車
窮屈なスーツ
重い鞄
入社してまだ慣れない朝を、毎日地獄だと思っていた。
潤いはない。
同期は大学時代からの彼女とデートがあったり、合コンがあったりと忙しそうだった。
大学の時の新歓コンパさながらに毎日飲み歩く同期に、たまに巻き込まれて酒に付き合った。
俺は同性愛者だ。
故に、合コンという物に興味はなく、残念ながらカミングアウトをする勇気は持ち合わせて居ないので、事務的にソレに付き合う事になる。
背が低く、黒髪に色白、弱そうな事を象徴するように骨から細く、たまに女子に間違えられる事がある俺は、勿論可愛いと騒がれはしても、決してモテるわけではなく、ただ、時間が過ぎるのを待つより他なかった。
でも、その日は不覚にも深酒してしまい、気づいたら店の外で一人へたり込んでいた。
誰の介抱もない事を思うと、今日の合コンにも、使命を果たす為に協力してくれるような奇特な女性は居なかったようだ。
ガードパイプに掴まって身体を起こす。
真っ直ぐ続く歩道。
先程まで飲んだくれていた居酒屋と隣の串カツ屋の間の路地裏…と呼ぶには狭過ぎるビルとビルの間に人の足の様な物が見えた。
「…あれ?飲み過ぎたかな…」
目をゴシゴシ擦っても、やっぱりだらしなく横たわった膝から下が道に出ているように見えた。
ヨタヨタとバランスを取りながら歩みよる。
近づくとやっぱり人間の足なのが分かって冷や汗が出た。
「やばくない?」
自分が存分に酔っ払って、孫を作る相手が居なかった事を嘆いていた数分前に戻りたいと思っていた。
ビルの隙間に身体を入れるのが怖くて、放り出された足をトントン叩いた。
「すっ!すみませんっ!あのっ!ちょっとっ!」
『ぅゔっ…』
呻き声が聞こえた。とりあえずはコイツ生きてる!よ、良かったぁ〜。怖かったんだよな、死体みたいなんだもん!
「大丈夫ですか?救急車、呼びましょうか?」
『誰…だ…』
「へ?」
『誰?』
いやいやいや!誰じゃねぇんだよ!てか、おまえが一番誰??だからなっ!
「と、通りすがりの通行人です!」
『あぁ…そ。』
「あぁそって、あなた!大丈夫なんですか?こんなところで」
『ガタガタうっせぇなぁ…いてぇんだよ。ほっとけ通行人』
なっ!!
何だコイツ!
俺だって酔っ払ってんだからなっ!
「ただの通行人ですけど!こんなところで危ないでしょ!痛いって怪我してるんじゃないんですかっ!」
暗闇に横たわっていた人間が勢いよく起き上がったと思ったら俺のネクタイを握りズイッと顔を突き付けて来た。
「ヒッ!」
小さな悲鳴を上げてしまう。
相手は片目がバンバンに腫れて目が開かないようだった。明らかに殴られた傷だ。
「あっ!あのっ!」
『おまえ、うるせぇっつっただろ!…っってて…はぁ〜っっ!クソッタレ』
脇腹を抱えて蹲る男。
よく見るとその男はめちゃくちゃ綺麗な顔立ちをしていて、髪が金髪よりももっと白いブロンドで、より日本人離れして見えた。
『ぁ…』
「え?」
『おまえ、名前なんつーの?』
「ひ、日高です。」
何故きちんと名乗ったのか自分でも不思議だった。
ただ、俺は同性愛者で、相手は最上級に近いイケメンだったから…なのかも知れない。
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