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手紙には日付と時間
それから場所が書いてあった。
"おまえは幸せになれ"
たった一言
叶わないような願いが書かれている。
俺はもう
生きていたくない
庵司、苦しい
苦しいよ…。
飲まず食わずの俺に、燕さんが点滴を繋いだのは、手紙を読んでから3日目の朝。
そして、その手紙に書かれていた日付の日だった。
時間は夕方18時。
場所は二人で行った海の埠頭。
点滴のおかげで、何とか動けるようになった。
約束の時間に、何があるのか分からないままそこへ向かう。
埠頭の先端に人の影。
ギラギラ揺れる太陽が沈む。
ちょうど背格好が庵司によく似ていて、自分の胸元のシャツをキツく掴んだ。心臓が騒ぐ。
全部、嘘だったんじゃないかと…
あの人影は…まさか庵司なんじゃ…
そう思うのに…彼の髪はキラキラ光らない。
どうして彼がここに居るのか
俺には理解出来なかった。
逆光で顔が見えないのに…振り返った彼が誰だか、俺は良く知っていた。
力が抜けて、ゆっくり崩れるように彼にしがみついた。
「雪乃くん…」
俺の身体を支えるのは…優しい声をした圭介さんだった。
「どうして…どうしてここに」
声が震えるのを止められない。
「…アイツが店に来たんだ…」
「庵司が?!」
「雪乃の事、本気なら今日ここへ来いって。」
涙が止まらず、溢れて零れて、息が出来なくなる。
「本気じゃないなら、絶対来るなって…アイツ…それ以上何も言わないで出てったんだよ…。一体何が」
圭介さんにしがみついて支えられていた俺は息が乱れたまま…ゆっくり首を傾け泣きながら微笑んだ。
「庵司……死んじゃった」
息苦しくもがく俺の背中を撫でていた圭介さんの手が止まり、両肩を掴んで顔を覗き込まれる。
「死ん…だ?」
「へへ……ぅゔ…嘘みたいだよね」
「そんな…」
「最後に…ここに来たんだ。陽が沈むのを…ここで一緒に見た」
泣き崩れる俺を必死に抱き上げる圭介さん。
俺は度々意識を失って倒れた。
涙でブクブク揺れる視界に、オレンジの光が差し込んで、あの日みたいに…波音が優しかった。
どうしても、上手く息が出来ない。
水の中に
沈められたみたいだ。
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