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39 最終回
39
寝室にある窓から見える景色は暗くなり、数時間が経った事だけが分かった。
ガタンと音がして、誰かが入って来たのが分かる。
燕さんが言った事…本当は全部うそだったりしない?
俺と別れたいだけで演技してるとか?
それなら…嫌だったとこ全部直すから一緒に居ようって…
俺とずっと
だから…死んだなんて冗談…やめてもらうんだ。
コンコンと寝室の扉がノックされて
キラッと寝室の照明に反射した…ブロンドの
髪
「庵司っっ!!」
俺は叫んで、点滴が繋がっている事さえ忘れて、ベッドから飛び起きて入って来た人物にしがみついた。
震える足で立てず、胸元の服を掴んで縋りついた。
「…雪乃くん…俺だよ…」
優しく抱き寄せられ、ゆっくり顔を見上げると、圭介さんが
泣いていた。
「なん…で…」
髪の色に驚いて呟く俺に、圭介さんが言った。
「雪乃くんが…庵司と生きてくなら…俺がアイツになる。…雪乃くんの中で、整理がつくまで…庵司でいる。」
「……何言って」
「圭介は居ない。庵司と生きるんだよ…雪乃」
髪をブロンドに染めて戻った圭介さんが、泣きながら俺を抱きしめて、バカな事を言う。
「どうして…どうして俺なんかの為にそこまでするのっ!!何でっ!」
「燕さんから全部聞いたって…言ったよね?アイツ、雪乃くんに嫌われようと必死だったらしいね。別れたら、知らずに済む事だからって。だけど、アイツは雪乃くんを愛し過ぎてたって。結局、芝居を打って…何食わぬ顔で離れるなんて…俺ね、アイツ…すげぇとか思ってる。こうなる事、分かってて雪乃くんの事ばっかり考えて…。普通なら、自分の事で精一杯になるよ…それだけ大切な人だったんだなってちょっと怖いくらい感じた。アイツが本気じゃないなら行くなって言ってた意味、分かったんだよ。俺はその時、こんな事になってるなんて思ってなかったけど、ちゃんと本気だから埠頭に行ったんだ。雪乃くんが好きだから。好きだから分かる事って…あるんだよ。君は今…俺を愛せない。この先は?それも分からない。…だったら、俺は俺じゃなくて良い。庵司の代わりで構わないんだ。」
「かっ構わないわけないよっ…そんな事っ」
圭介さんが俺を強く抱きしめた。
「一人にしたくないんだっ!!…君は…そうでもしないと…死ぬ気なんだろ?お願いだよ、雪乃くん……俺と……生きて」
冷たくなっていた身体が、熱い圭介さんの腕に包まれ温かい。
ゆっくりブロンドの髪に手を伸ばす。
「俺は…庵司を忘れない…きっとこの先もだよ?」
圭介さんがゆっくり額を合わせてくる。
近づいた顔を見上げると、庵司とキスをする時みたいに、視界の先でキラキラとブロンドの髪が揺れた。
チカチカと目眩がする。
何が現実か分からなくなりそうだった。
「いつかさ…願いが叶うなら…俺を見て欲しい。でも、それは今じゃないから。」
いつか
願いが叶うなら…
「じゃあ…いつか願いが叶うまで…圭介さんは…俺を一人にしないでくれるの?」
圭介さんが俺の頰を撫でる。
俺は彼の真っ直ぐな瞳を見つめて、ハッキリと呟いた。
「庵司…愛してる」
俺はそう呟いて、庵司のフリをさせた圭介さんと唇を重ねる。
「庵司…ぅゔ…んぅっ…庵司…愛してる…ぅ…ぅゔ…ぅ…」
泣きながら、舌を絡めて、庵司の名前を呼ぶ。
そうする度に、圭介さんの首を緩く絞めていくのが分かる。
圭介さんを傷つけて、苦しめるんだ。
だけど…やめられない。
庵司の名前を呼んで、庵司だと思って良いなら俺は圭介さんでさえ
きっと壊せてしまう。
いつか願いが
叶うまで…
「ねぇ…庵司、また陽が沈むのを、見に行こう」
圭介さんが涙を流しながら
「あぁ…行こうな」
と虚ろな目をした俺の唇に触れた。
俺はソッと彼の首に腕を回す。
「庵司…大好き。」
庵司は
生きてるじゃないか。
END
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