6 新しい算数ドリル

2/13
前へ
/89ページ
次へ
 広瀬先生は眉をハの字にしていた。  おれは隣の席にいる夢人と、顔を見合わせた。 「また学校に怪盗ノットが現れました。今度は私たちのクラスの算数ドリルが盗まれました……」 「うそー!? 四年二組だけ!?」  クラスのみんなが目を丸くした。 「先生、なんで盗まれたんだよ!?」 「職員室にあるんじゃないの!?」 「えっと、その……教室にうっかり置き忘れちゃって……てへ」 「ええーー!!」  先生がてへぺろを繰り出すと、クラスのみんなが叫んだ。  おれよりも前の方の席にいる愛菜が、くるりとこちらを振り向いた。  そして、ぎっとにらんできた。  ええー……まだおれたちのこと、疑ってんのかよぉ。  確かに、おれたちが金曜日の夜に盗みました。  でも、その算数ドリルは奪われました。  奪われたんだよ……。 『志音、志音。応答せよ』  おれの名前を呼ぶ声が頭、に直接ひびいた。  怜音からのテレパシーだ。  その声に応えるために、意識を集中する。 『こちら志音』 『お前のクラス、予想通りさわぎになってんな』 『うん。あと、愛菜がまたおれをにらんでるよ』 『まだ疑ってんの、少女探偵さん。確かにオレらが盗んだけど、持ってねーからなー』 『ミッション失敗なんて初めてだ』 『だな。こんなにやらかしたことなんてねーもんな』  ターゲットを奪われた。  ターゲットのロボチップを、破壊することができなかった。  当然、ターゲットを元に戻すこともできなかった。  怪盗ノットの流儀は、一つもできなかった。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加