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離れがたくて…
ブリジット・ヘイデンの(前世の私の)遺骨。
それをジョアンは(ビンセントは)指定していた納骨堂に納めずに自分で持っている。
という話を聞かされ
(…やりかねない…)
と思ってしまったのだから…
私はかなりジョアンの事を(ビンセントの事を)色々と思い出してきてるのだと自覚した。
ヒョードルが私の顔を覗き込みながら
「本当に言いにくいんだけどな。潜在的記憶まで読む読心術師達に言わせると『たまに取り出して遺骨を齧ってみたり』とか、病的なくらい執着があるらしい。…それで、ここからが本題なんだが。
…遺骨と一緒に納められていたものがあっただろ?スキルの苗をコレクションした亜空間収納袋とかいうヤツ。見える人間も少ないんだろうけど、お前は見えるんだよな?」
と尋ねてきたので
「うん。見えるだろうね」
と答えた。
「亜空間収納袋の中に自分で入ってみたことはあるか?」
「…まさか…」
「そのまさかなんだな。俺は自分を実験台にして入ってみた事がある。もちろん動物を使って散々試した後でだがな」
「…よく生きてるね?死ぬよ?フツーに」
「だろうな。『生き物を入れると死ぬ』ことが分かった。だから『何秒で死ぬのか正確な時間を割り出せないだろうか?』と興味を持ったんだ。
それで色んな動物を使って何度も試した結果『3秒』が限度だと分かった。だからチェーザレにも協力してもらって俺自身が中に入ってみて『2秒』で取り出してもらった。ご覧の通り生きてる。実験は無駄じゃなかった。
しかも内部に入ったことで、俺の『場』の中に亜空間収納袋の中に収められてたスキルの苗が入り込んだという事なのか…鑑定すると『魅力プラス補正スキル』が加わってたんだ。
ただ、なぜか少し時間が経つと消えてた。不審に思ってみたが『スキルの苗』って呼び方がされてる点からして、スキルは植物みたいに育つものなんだろ?
それで『土壌の合う合わない』が関係して、合わない場合は枯れ死にするみたいにスキルが消えるんじゃないのか?俺の中に入り込んだ『魅力プラス補正スキル』がすぐに消えたのは俺の場の土壌が合わなかったからなんじゃないのか?」
そう問われて
「…アンタ、相当なチャレンジャーだね」
としか言えなかった。
亜空間収納袋。
それは前世の私が創り出した自信作の魔道具だった。
内部は半物質空間になっていて、時間経過もなく空気もなく、生き物を入れたら死ぬが、それ以外のものを「入れた時の状態のまま保存」する事ができるスグレモノ。
自分で作っておいてなんだが、生き物を入れたら死ぬと分かってる空間に自分で入ってみようなどとは私は一切思わなかった。
中に入ってスキルの苗を見てみようとか、自分の中にスキルの苗を取り込もうという発想も無かった。
(何せ『転移能力』で自在に出し入れ出来るし、模倣能力で中の苗のスキルを模倣するのにもわざわざ取り出す必要はない)
ジョアンがベネディクトに言ったように「転移能力を持つ者」以外にとって、スキルの苗を形成してる半物質を他人の場の中に移植するとか自分の場の中に移植するとかはできないし。
前世の私以外の人間にとっては無用の長物だ。
だがそこまで考えて
(まさか…)
と恐ろしい可能性に思い至った。
「まさかヒョードルは私に亜空間収納袋に入ってみろとか言うんじゃ…」
「そのまさかなんだ。スマンな」
「…いや、スマンな、じゃ済まないよ。死んだらどうしてくれるの?こっちは1000年以上も人間に生まれて来れなくてやっと人間になれたのに!」
「だから死ぬ前に取り出すから、それは信用してほしい」
「信用できるか!」
「だがお前自身試してみたいとか思わないか?上手くすれば転移能力の苗が入り込んできて転移能力が使えるようになるかも知れないんだぞ?」
「あったら便利なんだろうけど、命をかけてまで欲しいとは思わないよ。これまでも只人として生きてこれたし、今後も只人として生きていけるなら、それが一番無難だよ」
「無難さに流れても人生、後手に回るだけなんじゃないのか?」
「アンタのチャレンジャー精神に私を巻き込まないで」
「なあ、試してくれよ。お前が試してダメだったなら、お前が能力的にモブのままでも文句は言わずにフォローするからさ」
「…ちゃんと2秒で取り出すって約束をしてくれるなら、2秒だけ入っても良い。『契約有効化スキル』の持ち主に立ち会ってもらって『絶対2秒で取り出す』って破棄不能な約束をした後でなら…」
他人の口約束は信用できない。
特約契約者のスキルには「契約有効化スキル」というものもあって、そのスキルが発動されてる中で約束事をすると「破れない約束」となる。
他人からの要望でしぶしぶ何かを行う時には必ず「破れない約束」で相手に制約を課しておくにかぎる。
「そうか。それなら近場に居る『契約有効化スキル』持ちの特約契約者をさっそく呼び出そう。事を起こす前にジョアン様にバレると絶対止められるからな」
とヒョードルが満足そうに独りでウンウンうなずくのを横目で見やりながら…
(この手のチャレンジャーって根本的に人格的に問題があるよなぁ。自分が楽しむためなら他人の命も自分の命さえも危険に晒しかねないようなところがあるから、色々狂ってるって言うか…)
と内心で思うと
「…お前は筒抜けになるの分かってて読心術師の前で当人の悪口を考えるヤツだからな…。色々とキモが座ってるよ」
「どうなんだろうね?私からすれば『ムカつくなら他人の心なんて覗くなよ』って思ってる。だから覗き屋が覗いてる時にこそ覗き屋の悪口を言ってダメージを与えてやって丁度いいんじゃないかって思うよ」
「…我が子ながら(義理のだけど)ロクな人間じゃないな。お前が可愛げなく育ってくれて、父さん嬉しいよ。可愛げがあって隙だらけだと、こんな職場で本格的に働くなんてできないからな!」
私は読心はできないものの、それでもヒョードルが本気で私に関して(可愛げがなくて良かった)と思ってるのは、なぜか分かった…。
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