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狩猟者観点
憲兵による犯罪者の取りもの。
それはたまに見かける。
と言っても、憲兵は基本的にナマケ者。
真面目に犯罪を減らすために犯罪者を捕まえ罰するなら、犯罪者達から逆恨みされて仕事が「収入に見合わない高リスクの仕事」に変わるかも知れないから…ということも原因の一つ。
なので上から「これだけは必ずしろ」と圧力をかけられる案件でしか真面目に仕事をすることはない。
よって彼らは逃げ回る孤児を追いかけて食い物の万引きを罰するようなことに熱心じゃない。
要は、憲兵隊は「権力にほど近い人物が被害に遭った案件のみで働く」もの。
被害者が庶民の時には何もしない給料ドロボーなのである。
孤児にとっては憲兵よりも、自分が万引きした店の者による直接の私刑の方がよほど怖い。
憲兵などの国家権力側の人間を見かけると反射的に逃げ隠れするものの、そこまで本気で恐れてはいなかった。
だけど…
その認識はある日くつがえされた。
その日は私がいつも店先から果物を盗んでいた八百屋の前に…
イカツイ顔の男が居て辺りを見回していた。
(用心棒でも雇ったのか?)
と不安に思いながらも、店先に並ぶ果実を見ると…
やっぱりナマツバを呑まずにはいられなかった。
(ノドが渇いた…。ウマそうだ…)
そう感じると
頭の中はいかにしてスキをついて盗もうか…
という考えで一杯になった。
不思議なことに「スキをつく」という事を意図し、集中すると、周りの者達の注意の置き所が判るようになる。
集中する事によって「空間」というものが無数の歯車の連動で動く巨大な連動体として感じられるようになる。
野生動物だと、人間達の意識の連動体からの影響力が薄い。
だから野生動物は普通に人間達の思い込みをぶち壊すような行動を取り、しかも人間達からの呪いも受け付けない。
異なる連動体に属しているので噛み合う事がない。
「狙う」
「スキをつく」
そうした考えが自分の中で高まってる時には
「全ての連動体から解放されている」
のだと感じる。
「人間」という枠に生まれ落ち、「人間」の意識の連動体から恩恵を受けて知性を宿している。
それでいて
「人間なのに人間をカモにする」
という罪を冒すのだ。
自分を正当化するために
自分の中に大義名分が必要になる。
(飢えたくない…。生きるためだもの…)
そう自分に言い聞かせる。
そしてスキをうかがう…。
いつもの事だが…
スキが出来る時は
ケンカやら不慮の事故やらに人々の意識が引きつけられる時だ。
その時も狙いの店のすぐ近くでケンカが始まって
人々の意識にスキが出来た。
イカツイ顔の用心棒みたいな男も
ケンカが始まった方向へ目を向けて意識を奪われていた。
私の場合はケンカが始まる前からケンカが始まる事が判ってた事もあり、大声が上がる前から人影にまぎれつつ店先に近づいていた。
大声が上がった時には、皆の注意が声の方へ向くタイミングに合わせて簡単に狙った獲物をかすめ取ることが出来た。
「人々の意識の連動体」には必然的にスキが出来る。
それは人々が出来事の表面だけとらえることに慣れ過ぎているからだとも言える。
鍋に水を入れて火にかけると水が熱くなって湯になり、それでも熱し続ければ沸騰する。
それを予測するのと同じくらいケンカが起こることを事前に予想するのは簡単だ。
一気に駆け出すと逆に人目につく。かすめ取った果実を上着の中に隠しながら人影にまぎれ続け、店から離れ、充分に距離が開いてから走って馴染みの路地裏へと潜り込んだ。
ホッとしたせいで
「…用心棒なんて雇いやがって。…食い物の調達はどんどん難しくなるな…」
と思わずグチが呟きとしてもれたが
その時に背後から
「見事なものだな」
と声がかかった。
冷水を浴びせかけられたようにヒヤリとして振り返ってみると…
怖そうでも何でもない中年の男が感心したように私を見ていた。
「…あんた誰?」
と恐る恐る尋ねると
「誰って言われてもな?俺が名前を名乗ったところで意味は無いだろ?お前には俺の名前なんて関係ないんだからな?」
と言われた。
(それもそうだな)
と納得しながら
「…それじゃ、あんた何物?」
と、中年男の役所に関して尋ねると
「お前の味方さ」
と、ほほえまれた…。
(味方?…憲兵じゃ無さそうだよな。あの店の人でも無さそうだし。…敵じゃないって意味で味方だって言ってるのかな?)
私が首をかしげると
この中年のヤサ男は
「この社会には一応『人民保護プログラム』というものがあって、盗みを始めとする犯罪を犯さないと生きられない環境にある者達を保護して更生を促す公的機関があるってことさ」
と穏やかな表情で告げながら…
手馴れた手付きで私の手に手錠をかけた…。
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