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冒険者予備軍
剣と魔法の世界。
この世界には「冒険者」という職業がある。
冒険者は所属を定めない何でも屋兼戦闘員。
ギルドへの登録は12歳から可能。
親も保護者もない孤児であっても12歳から収入を得る手段があるのだ。
8歳の時に母親を亡くして孤児となった私は12歳の誕生日を指折り数えて待っていた。
「食べていく」という、たったそれだけのことでさえ足掻く必要のある社会。
そこでは収入も身よりもない孤児はゴミを漁り、盗むことでしか食いつなげない。
当然ながらゴミ漁りは公共衛生に反するし、盗みは犯罪だ。
見とがめられれば怒鳴られ、時には追いかけられ、追いつかれればケリを食らわせられる。
そんな野良犬のような生活と比較するなら…
「収入を得る手段がある」という環境はありがたい。
「罪を犯さないと(盗みを働かないと)生きられない」環境を知ると
「罪を犯さずに(盗みを働かずに)生きられる」環境は安全な環境だと感じられる(たとえ仕事が薄給の何でも屋でも)。
だけど問題はある。
ギルド登録するとギルドカードが発行されるけど…
ギルドカードは「魔道具」になっていて、それなりに高い。
なので登録には当然、それなりの登録料がかかる。
孤児の身にはそういった登録料をためるのも楽じゃない。
なにせ食べ物を盗むのとカネを盗むのとでは難しさのレベルが違う。
世間の大人には「孤児が食い物を盗む」ことを「畑の作物を害虫がむしばみ害獣が荒らす」のと同様に「自然の一部」のようにあきらめがちに受け入れてる人も多い。
だから食い物を盗む分にはどなり声は浴びせかけられるものの、しつこく追いかけて取り戻そうとしたり、半殺しにするようなリンチをする人は少ない。
だが盗むのがカネだとそうはいかない。
どんなに幼くても情けようしゃない。
怒り狂った大人の暴力を手加減なしで受ければ子供は簡単に死ぬ。
ケラれてる時に死ぬ者も多いが、怪我が原因で何日か経って死ぬ者もいる。
本当にリスクが高い。
なのでギルド登録料のカネを貯めることに関してはゴミの中からまだ使えそうなモノを探し出し、古道具屋に売って小銭を稼ぐのが無難だった。
そうやって得られるのは本当に小銭。はした金。
一朝一夕では登録料の金額は貯まらない。
古道具屋の爺さんからは
「いっそ孤児狩りに捕まってみたらどうだ?」
と言われたが…
それはイチカバチカのカケのようなものだ。
噂だと…
「捕まれば様々な検査をされ、役に立つ人材だと見なされれば『投資』と称する優遇が受けられ、役立たずだと見なされれば奴隷として売り払われる」
と言われている。
私はそんな危険なカケをするよりも手堅く登録料の分のカネを貯めたかった。
だから孤児狩りに捕まった時には
「(人生)終わった…」
と本気で思った。
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