龍護る女たち

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 首里城に来てから神に金丸と王妃を殺してほしい。何度もそう願いました。何度も何度も、一日に何度も同じことを願い続けました。  それはもう叶わない願いだとわかりきっておりました。それでも、祈らずにはいられないほど、私は金丸と王妃を恨んでおります。  もうそのようなことは願いません。願う気力もございません。  今の私のたった一つの願いは、すぐにでも死ぬこと。生きる苦しみから逃れたい。その一心にございます。  首里城の神々よ、龍よ、どうかお願いです。もう金丸と王妃の不幸な死など願いません。神に仕え護ってきたこの百度踏揚に少しの幸せをくださると言うなら、今すぐにこの命を果てさせてくださいまし。  百度踏揚のわがままを、どうか平にお許しくださいませ。そして叶えてくださいまし。 「女のお前なら簡単にできること。そう難しいことをしろと言うのではない。身構えずともよいわ」  玉城の地で逃げていた時と同じ。酷く強い雨が降り始めました。  王妃が見下す庭に座っている私は雨に打たれるのみ。為す術なく体を濡らされるだけにございます。  濡れた服が私の温度を奪っていってしまいます。 「金丸様には弟がいる。弟の名は空添(そらぞえ)。金丸様はお若いとは言えないお年。もし、万が一にも御身に何かあった時、金丸様の後を継ぐのは私の息子でないといけない」 「……ですが、王子様はまだあまりに幼い。王位を継ぐことができる年齢ではございません」 「だからお前がいる。滅ぼされるべき前王家の血を持つお前がな」  足と手の感覚はありません。唇はがたがたと動いてしまいます。  未だ降りしきる強い雨が、ただ震えるしかない私を容赦なく濡らし続けます。 「前王家の王女とまぐわった者が玉座に座れるはずがない」  王妃は相変わらず私を見下して、王妃の周りの城人(グスクンチュ)、女官たちすらも私を嘲笑っております。 「空添の前で股を開くだけで良いのだ。その美貌を使えば簡単なことだろう」  降り続いた雨はぴたりと止んでしまいました。  急に降る雨が止む時は太陽もすぐに出てきて、雨粒を光らせます。  きらきら、きらきらと。目が痛くなるほどに輝く雨粒。空には天高く昇る太陽。  王妃をも照らす太陽が恨めしくてたまりません。  私のたった一つの願いも聞き入れてない神も、この国の者たちも、私から全てを奪い取ったこの国も。  全て、私の目に映る全てのものが恨めしくて仕方ない。  こんな国、滅んでしまえ。
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