龍護る女たち

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「尚泰久王王女、百度(ももと)踏揚(ふみあがり)様にございますね」  雨が止みました。  生い茂る木々の葉にのる雨水が太陽に照らされてきらきらと輝いています。  なんと恨めしい光景なのでしょう。 「えぇ、合っている」  私には父上様母上様から授かった真乙という名の他に、百度踏揚という名がございます。  王族の女として生まれた私には祭祀を司る使命がございました。祭祀の際に名乗る名が百度踏揚。高級神女(ノロ)としての神名にございます。 「私はこの場から少しも動く気はない。金丸(かなまる)の放った追っ手なのでしょう。この場で私を殺しなさい。もう首里の地をこの足で歩くつもりはない」  恨めしい光景に浮かぶのは金丸、お前の顔にございます。  私はこれから死なねばならないのに、きらきらと光り輝く木々の葉。目の前に浮かぶのは私に仕えてくれて、その後は夫となってくれた賢雄の仇の顔。  私の生にはなんの意味があったのでしょうか。わからなくなるばかりにございます。 「私たちは金丸様ではなく、王妃様から命じられて百度踏揚様を探していました」  私を取り囲んでいた者たちは一斉に私に跪きます。  予想だにしない光景が目の前に広がります。私は不本意ではございますが、罪人となった身。その罪人である私に……なぜ王府の者たちが跪くのでしょう。 「百度踏揚様には私たちと共に首里城に来て頂きます。王妃様には必ず生きて連れて来い、と強く仰せつかっております」  追っ手は金丸の放った者たちで、父上の血をもつ兄上様や私を殺しにきた。どうやらそれは勘違いだったようです。  この者たちの狙いは初めから私だけ。母上様にご無理を強いる必要も、兄上様が必死に逃げる必要もどこにもなかったのですね。  もっと早く、私がこうすれば。 「……わかった。お前たちと共に首里へ向かおう」  もう二度と訪れることも一目見ることも叶わないと思っていた彼の地の一つ、首里。そして首里城。  あまり長い時間を過ごした場所ではございません。ですが、私にとっては幸せ溢れる記憶に彩られる地にございます。  父上様も母上様もおられなくなったその地を見るのは、首里城に我が物顔で住まう金丸たちを見るのは、心が押し潰されるほどの辛い思いを抱くことになりましょう。  ですが、私がこの場でそれを受け入れなくては、この先にいる母上様や兄上様がどのような目に合うのか。それは考えるのも恐ろしいことになりましょう。
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