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琉球の王が住まう首里城。
今この首里城に住まうのは王などではありません。王を名乗るまがい者とその一族。
「お前が百度踏揚か」
目の前にはきらびやかな装飾を身にまとう女。見覚えはございません。
母上様や兄上様方なら見覚えがあるのでしょう。ですが、すぐに首里城から遠くの地にある勝連城に嫁いだ私はこの女を知りません。
知りたくもありませんでした。
「殺されたくなければ言うとおりにすることだ。お前はもう王女ではなく、ただの神女でしかない。王妃である私よりもはるか下の女なのだから」
父上様の側室がとても嫌いでした。
似合わぬ紅をさし、似合わぬほど豪華な金簪と着られているような数多くの装飾品。
それなのに側室の子、私の腹違いの弟は兄上様たちを差し置いて王座に腰を据えることになりました。
あの時は弟を酷く恨みました。母上様は王妃なのです。王妃の子ではなく、なぜ側室の子が。賢雄と静かに暮らしていた私は、酷く醜い言葉を何度も心の中で呪いのように吐き出しておりました。
今この時、私の置かれた立場。今と比べれば弟が王になるなど。そのようなことなんとも思わぬことでしょう。
父上様の血を引く者が王になるなら、何を言うことも、思うこともございません。
「我が娘に神名を授けよ」
「……なぜ、私にそのようなことを求めるのでしょう」
「言ったであろう。お前は私よりはるか下の女である。王妃である私の考えを知ろうなどとおこがましい」
王妃である。
王妃は私の母上様のことにございます。それか弟が王だった時のお方。私の知ってる王妃はその二人だけにございます。
まがい者の王、金丸の妻だからと王妃を名乗るなど……心ではなんとでも言えましょう。どんなに醜い言葉でも吐けましょう。
ですが、この女の言うとおり。私は従うしかございません。
玉城の地で別れた母上様や兄上様に危険が及んではなりません。それだけは避けなければなりません。
私がどんな目にあっても、母上様方を護らねばなりません。
「百度踏揚、しかと拝命致しました」
この首里城には至る所に龍がおります。
昔、父上様になぜこれほどの龍が描かれ造られているのか、聞いたことがございます。
『龍とはこの国を護る神。その神の化身が余。琉球の王とは龍の化身だ』
その言葉の意味は未だにわかりません。王として生きた父上様や弟にしかわからぬことにございましょう。
わからなくて良いのです。私はただの王女。龍を護る者にございます。神に仕え護る神女が神を理解しようなどと、そのようなことは不可能にございましょう。
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