2人ならきっと大丈夫だから

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それってつまり、この状況に慣れるって事でしょ?まずそれが無理だ。大好きな歩と一緒にいるだけで私は幸せだし、大好きな歩が私のために何でもしてくれるこの状況が信じられない。 元カレが最悪すぎたのか、それとも歩が最高すぎるのか。いや……それはどうでもいいや。とにかく、いま私は幸せだ。幸せ以外の言葉が浮かばない。これ以上の何かなんて、今はまだ考えられなかった。 歩の準備してくれた料理はどれも美味しくて、お店と違ってマナーを気にせず、気楽にフレンチを味わう事ができた。食事の後はデザートにケーキを食べた。歩も私と同じ様にケーキを買って来てくれていて、お店は違ったが2人とも「無難だから」を理由にショートケーキを買っていたのには笑ってしまった。私は歩が買ったショートケーキを、歩は私が買ったショートケーキを温かい紅茶と一緒に食べた。 「せっかくの記念日だし、いいお店に食べに行けたら良かったんだけどね」 ケーキを食べながら歩はそんな話をし始めた。私は「これでも十分だよ」と答える。物足りなさなんてこれっぽっちも感じていなかった。ふと歩が手を止めて「実はさ」と口を開いた。 「最近ちょっと付きまとわれてるんだよね。それも警戒して今日は家にしたってのもあって」 「付きまとう?ストーカーってこと?」 「いや、週刊誌の記者。俺が別宅を使わなくなったから、本宅の周りでチョロチョロしてんだよ。動き出したのはツアーが始まってからだから、たぶんまだ透和のことは特定してないと思うけど、気をつけてね」 私は「分かった……」と頷いたけど、気をつけるって具体的に何をすればいいのか見当もつかない。頭を悩ませていると、歩が自分のケーキの苺をフォークにのせ、なぜか私のお皿に移動させた。 「あげるよ」 「え、いいよ。私も苺あるし」 「俺がどれくらい透和が好きかって言うと、ケーキの苺をあげたくなるくらい好きだよ。それを伝えたくて」 「……酔ってる?」 私がそう問い掛けると歩は「酔ってるかもね」と笑った。どれくらい相手が好きか。それなら私だって負けない。私は最後に食べようと残しておいた自分のケーキの苺をフォークでクリームごとすくい、歩のお皿に置いた。 「私だって苺をあげたいくらい歩が好きですけど?」 「……いや〜俺、愛されてるね。最高だね」 嬉しそうな歩は私が上げた苺を頬張り、「美味しい」と呟いた。 ライブのステージやテレビで見せるのとは違う笑顔を歩は私の前だけで見せてくれる。これがきっと彼の素なのだろう。そんな一面を私の前で容赦無く晒してくれる。それすら贅沢だと、私はそう思っていた。
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