言い訳してもいいですか?

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言い訳してもいいですか?

寄り道したい、だけど、できない。 これは誰が何と言おうと、高校生の私にとって人生最大の難題なのであった。 別に、無理に寄り道したいわけではないのだが、できれば寄り道したいのだ。 本当のところを言えば、いつも寄り道できるようになると、ベストだと思っていた。でも、その場合、どんな顔で多田くんと向き合えばいいのか、それがわからなかった。 多田くんがアルバイトする、コンビニ。 私は部活帰りの夕暮れ時にいつもその店先から店内の様子をうかがっていた。 レジにはいつもコンビニの制服を着た多田くんがいて、丁寧に接客しているのが見えた。 多田くんは、たぶん私の存在には気づいていない。それは寂しい事実だけど、私は一応、彼から見えないように隠れているのだから当然といえば当然のことではあった。 むしろ、多田くんのことを見ていることを逆に多田くんに見られていたら、と思うと実に恥ずかしいことであるからして、私と彼は最適な距離を保つことを心掛けていた。 というわけで、店先からこっそり店内を覗く不審な女子高生が誕生するわけだ。 だが、そんな私の習慣が壊れる日は突然やってきた。 それは、夏の激しい夕立で、傘を忘れた私は慌ててコンビニの店内に駆け込んだ。 制服はギリギリ濡れなかった。次の瞬間、ザーッと重い音とともに雨が落ちてきた。危なかった。これは最悪というべきか、幸運というべきか。何とも言いがたい、夏のいたずらであった。 私は店内から外の様子をうかがった。雨は激しく降り注いでいるが、思いのほか雲の流れは速かった。雨はすぐにあがるパターンだろう。 「森宮さん?」 名前を呼ばれて私はビクッとして振り返った。バイト中の多田くんがレジから私の方を見ていた。 想定外。多田くんに気づかれてしまった。一生の不覚であった。 私の多田くん観察プロジェクトがこんな形で終焉を迎えるなんて事はあってはならなかった。 「突然降ってきたな」 多田くんは私の隣にやってきて、一緒に雨空を見つめた。と言っても、私は多田くんと視線を合わせるのが恥ずかしくて、彼の方を見ることができなかったのだが。 多田くんとは中学からの同級生で、同じ高校に通っていた。 昔はよくしゃべった仲だけど、高校に入ってからは妙な距離ができてしまって、中学の時とは違い、話さなくなっていた。 だけど、私的には多田くんは楽しいヤツで、優しくて、お喋りであることはよくわかっているつもりであった。 「森宮さん。部活帰り?」  多田君が雨空を見上げてそう言った。 「練習もっと早く切り上げればよかったよ」 私も雨空を見上げた。 「最近、お天気も不安定だから」 そもそも、多田くんとこのコンビニで出会ったのは偶然であった。たまたま部活帰りに飲み物を買いに立ち寄ったら、レジに多田くんがいて「お疲れさま」とお会計をしてくれたことが私の心の深い部分に響いた。 それ以来、私はなんだかこのコンビニに入りたくて、でも、入れない、という、変な気持ちを抱えるようになっていた。 「傘、持ってないの?」と多田くん。 「買うのはお金、もったいないから」と私。 「タオル使う?」と多田くん。 「大丈夫。持ってるから」と私。 「そっか。じゃあ、大丈夫か」 多田くんはそう言って店の奥へ去っていった。ああ。最悪な私。彼の優しさを無駄に使ってしまった。そんなことを思考していたら多田くんがビニール傘を持って戻ってきた。 「コンビニの忘れ物。余っているから」 「でも、持ち主が、取りに来るかもだし。大丈夫。ありがと」と私は逃げた。 多田くんは残念そうに店の奥へ去っていった。雲の流れは速いが、晴れ間は見えなかった。雨脚は先ほどよりも強くなっていた。 私はなんで断ってしまったのだろうか。 すると、多田くんが今度は紺色の折り畳み傘を持ってやってきた。 「俺のだから。これならいいだろ。使えよ」 「えっ。でも。多田くん困るでしょ?」 「明日返してくれればいいから。遠慮するな」 そう言って、多田くんは私の手に紺色の折り畳み傘を握らせた。多田くんの優しさだ。 結局、私は彼から傘を借りてしまった。 弱まった雨の中、私は傘をさして歩き出した。雲が流れ、雨は通り過ぎた。晴れ間には虹が出ていた。 また明日も多田君と話せる口実ができたことをこの虹に感謝した。 自然な寄り道の言い訳。 お天気の神様、ありがとう。
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