雨乞い

｢ねぇ、キスしよっか？｣
｢え？｣

人気のない公園の小さな東屋。激しい雨に打たれた屋根は人の声をかき消してしまうほどの轟音を鳴り響かせていた。
雨に濡れた土の匂い
熱気で熱くなっていた地面が急激に冷やされた時のモヤモヤとした空気、、、
その全てが一気に押し寄せてくる。

彼女は高校生だろうか。
見覚えのない制服を身にまとっていて、その制服が少し濡れた体にピタリと張り付いていた。
夏の日差しで焼けた健康的な肌、スラリと伸びた手足、、、
少し色が抜けたような髪の毛が雨に濡れている。
目鼻立ちは整っていて容姿端麗という言葉がよく似合う。

｢キス、してみない？｣

僕の聞き間違いではなかった。
今日初めて会って、偶然同じ場所に居合わせた彼女がなぜか僕にキスをせがんでいる。これは夢なのだろうか。
ドスンッ
教科書とノートを詰め込んだカバンが手からするりと抜け落ちた。

｢！！｣

刹那。
唇に感じた事の無いような生暖かい感触があった。何が起こったのか分からないまま目を白黒させてこの状況に身を強ばらせる。
柔らかく熱いものが入ってくる、、、
それはまるでこの夏の様に熱い。熱い、、、。
アイスが舌先で溶けていく感触とよく似ている気がした。
この暑さのせいなのか今の状況のせいなのか分からないが僕の思考回路は完全に停止したまま体と心が熱を帯びていく―――。